太山寺本堂

―太山寺本堂―
たいさんじほんどう

兵庫県神戸市西区
国宝 1955年指定


 かつての播磨国明石郡であり、現在の神戸市西区。丘陵地帯の谷間を流れる伊川の上流域、宅地開発が進むその丘陵の中でも特に豊かな自然が残る一帯に、天台宗の古刹、三身山(さんしんざん)太山寺(たいさんじ)は存在する。その伽藍の入口には、室町時代の八脚門である仁王門(重要文化財)が構えられ、またそこから伸びる参道沿いには、安土桃山時代に築かれた、名勝指定の枯山水庭園を持つ安養院などの子院が並び、その歴史の深さを伺わせてくれる。境内の中心において、石垣の上にどしんとたたずむ太山寺本堂は、鎌倉時代後期に再建されたものであり、それは仏教が大衆に広まり仏堂が巨大化し始めた初期のものとして貴重とされ、国宝に指定されている。




太山寺本堂の正面部分
正面の建具は全て蔀戸で、非常に開放的である

 平安時代の天延元年(973年)に記された「播州太山寺縁起」によると、太山寺は藤原鎌足(ふじわらのかまたり)が発願し、鎌足の長男である定恵(じょうえ)が開山、鎌足の次男である藤原不比等(ふじわらのふひと)の三男、すなわち鎌足の孫にあたる藤原宇合(ふじわらのうまかい)が、霊亀2年(716年)に堂宇を建立したと伝わる。宇合が明石の摩耶温泉で療養していた際、夢に薬師如来が現れ、定恵結縁の地としてこの地へ導かれた。宇合はそこに七堂伽藍を整備し、薬師如来を安置したという。平安時代以降は勅願寺として皇族から大衆までの幅広い信奉を集め、南北朝時代には41の子院を有する大寺院に発展した。その後、戦火により衰退したものの、現在もなお5坊の子院が残る。




和様を基調としているが、貫や木鼻などに大陸の建築様式が見られる

 現存する太山寺の本堂は、鎌倉時代の弘安8年(1285年)に発生した大火によってそれまでの堂宇が焼失した後、永仁年間(1293〜1299年)に再建されたものである。その規模は桁行七間、梁間六間。正面20.82メートル、側面17.76メートルと大ぶりなものだ。これは、鎌倉時代に仏教が大衆にも広く普及し、大勢の参拝客を収容する必要が生まれた為、以降の仏堂は礼拝の為の外陣を広く設けるようになり、巨大化していった。この太山寺本堂は、そのはしりといえる仏堂なのだ。本堂の屋根は一重の入母屋造で平入。側面の妻は、豕扠首(いのこさす)と懸魚(げぎょ)によって飾られている。なお、現在屋根は緑青鮮やかな銅板葺であるが、かつては檜皮で葺かれていた。




太山寺本堂の側面
左半分(外陣)は建具が多く開放的だが、右半分(内陣)は壁が多く閉鎖的だ

 背後を除く三方の周囲には、高欄の付いた縁が巡らされている。緩やかな傾斜地に建てられているが故、縁を支える束柱は奥から手前にいくほど長く、本堂の柱が立つ亀腹もまた手前の方が高く盛られている。平面は前より三間を外陣として、後ろより三間のうち桁行五間、梁間二間が内陣。その内陣の左右を脇陣が、背後を後陣が取り囲む形となっている。建具は正面全てが平安時代にルーツを持つ古式の蔀戸(しとみど)で、側面も前より三間の外陣部分は、手前側より板戸、蔀戸、引違い格子戸が並び、壁を作らない開放的な造りとなっている。一方、後ろ寄り三間の内陣部分は、左右、背面共に、中央一間に板戸がはめられているのみで、閉鎖的な造りである。




組物の出三斗は、東半分と西半分で様式が違う
写真左の出三斗は肘木に直線部分のある和様、右は直線部分の無い禅宗様

 軒下の組物は出三斗(でみつと)で、中備(なかぞえ)は間斗束(けんとづか)が入れられている。建具上部の内法長押(うちのりなげし)の上には、鎌倉時代に宋より伝わった技法である頭貫(かしらぬき)が通され、その貫が突き出た部分の木鼻(きばな)には、禅宗様の繰型(くりがた)彫刻が施されている。このように、太山寺本堂は、日本古来の建築技法である和様を基調としながら、大陸由来の建築様式である禅宗様の特徴も見られる折衷様の仏堂建築となっている。特に、出三斗の肘木曲線は、本堂の東半分が曲線と直線を有する和様のもの、西半分が直線を作らず曲線のみで構成された禅宗様のものであり、これは他に類を見ない、この太山寺本堂ならではの特徴である。




本堂内部の外陣
入側柱のみを残して内側の柱を省略し、広い空間を作っている

 本堂の内部は、内陣と外陣の間を格子戸と菱欄間によって区切り、仏の空間である内陣と、人の空間である外陣とを厳密に隔てた、典型的な密教仏堂の様相を呈している。天井は、外側一間のみが垂木を見せる化粧屋根裏で、内側部分は支輪で持ち上げた折上(おりあげ)の組入天井(くみいりてんじょう)。柱は、内部空間を広く使えるように、外側の入側柱だけを残し、内側の柱を省略している。床は、外陣部分が板張りであるが、内陣部分は一段低い土間敷きであり、その内陣中央後ろよりに基壇を設けて須弥壇を据え、本尊の薬師如来立像を安置している。なお、本堂向かって左側には阿弥陀堂が建っているが、そこには鎌倉時代の阿弥陀如来坐像(重要文化財)が祀られている。

2010年05月訪問




【アクセス】

JR山陽本線「明石駅」より神姫バス「名谷行き」で約35分「太山寺バス停」下車すぐ。
神戸市営地下鉄西神・山手線「学園都市駅」より徒歩約25分。

【拝観情報】

拝観料300円。
拝観時間は3月〜11月が8時30分〜17時00分、12月〜2月が8時30分〜16時30分。

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