瀞八丁

―瀞八丁―
どろはっちょう

和歌山県新宮市、三重県熊野市、奈良県吉野郡十津川村
特別名勝 1952年指定


 紀伊半島の内陸部、和歌山県、三重県、奈良県の三県が複雑に入り組むその県境に、瀞峡という河川峡谷がある。瀞峡は上流より奥瀞、上瀞、下瀞と区分されているが、そのうち最も下流の下瀞は切り立った断崖の峡谷に奇岩が連なるその特異な渓谷美を持つことで瀞八丁と呼ばれ、古くより景勝地として知られてきた。




険しい断崖絶壁の峡谷が続く

 世界有数の降雨量を誇る大台ヶ原を水源とする北山川は、紀伊山地と並走するように南へ流れ、本宮付近で熊野川と合流して新宮へと流れて熊野灘へと注ぎ込む。北山川と熊野川の合流地点である志古より20kmほど上流にある洞天門より始まり、幾度となく蛇行しながら険しい山々を超え、上流域へと続いていく。




大小二つの岩が仲良く並ぶ、夫婦岩

瀞峡の全長はおおよそ31km。もとは山地の中にできた滝であったが、それが自らを侵食していくことで徐々に後退し、形成されたV字谷である。その地質は砂岩や頁岩から成るホルンフェルス(一度形成された岩石が、マグマの熱などによって性質が変化しできた岩石)。白亜紀にできた地層である日高川層群の最上層にあたる、龍神層である。




岩の亀裂にできた洞窟の寒泉窟(42mの奥行きがある)
夏でも寒くて長時間はいられないことからその名が付いた

 瀞八丁こと下瀞は、瀞峡のうち田戸から玉置口にかけての約1.2kmの区間である。瀞(波の立たない場所という意味)という名の通り、川の流れは緩やかで水面は静か。深さがあるため水の色は深く、紺碧である。川の両脇は高さが最大で50mにもなる断崖によって囲まれており、崖上の木々の緑と相まって、極めて雄大な峡谷景観を成している。




亀のような形をした亀岩
実際にこの上で亀が休むこともあるらしい

 瀞八丁には様々な形をした奇岩が多数点在しており、それぞれの形に基づいた名で呼ばれ親しまれてきた。奇岩群は瀞八丁入口の洞天門をはじめ、大小二つの岩が仲良く並ぶ夫婦岩、亀が甲羅干ししているように見える亀岩、横幅が90m近くにもなる屏風岩、天に向かってそびえる高さ45mの天柱岩、大黒神のようにどっしりと風格のある大黒岩などと続いていく。




1605年の慶長大地震で落下したと言われる墜落岩(左)

 瀞峡は周囲を険しい山々によって隔絶されており、それゆえこの地に住む人々は北山川の水運を交通手段として利用してきた。上流域で切り出した木材を、北山川と熊野川によって新宮へと運び、それを売ることで生きてきたのだ。それゆえこの付近の人々は昔から紀州藩との結びつきが強く、今でも瀞峡上流部の奥瀞にある北山村は、三重県の中にありながら和歌山県の飛び地となっている。

2007年09月訪問




【アクセス】

JR紀勢本線「新宮駅」より熊野交通バス「熊野本宮」行きで約35分、「志古バス停」下車すぐ。

【拝観情報】

志古からウォータージェット船を利用(所要時間は約2時間)。

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