栃木市嘉右衛門町

―栃木市嘉右衛門町―
とちぎしかうえもんちょう

栃木県栃木市
重要伝統的建造物群保存地区 2012年選定 約9.6ヘクタール


 栃木県の南端部、埼玉県および群馬県との県境に位置する栃木市は、江戸時代に中山道の倉賀野宿から日光東照宮へと至る日光例幣使(れいへいし)街道の中継地として栄えた宿場町である。その旧栃木宿の北木戸(北口)にあたる在郷町が嘉右衛門町だ。嘉右衛門町の町並みは南北に通る例幣使街道に沿って形成されており、そこには江戸時代末期から昭和初期にかけて建てられた家屋が数多く現存している。その建築様式は様々で、極めて多様な町並み景観を作り出している事から、天保年間(1830年〜1843年)の絵図に見られる嘉右衛門町の範囲を基本とした東西約320メートル、南北約650メートルの範囲が栃木県初の重要伝統的建造物群保存地区として選定された。




例幣使街道沿いに建つ岡田家の屋敷
陣屋でもあった為、その門構えは非常に立派だ

 嘉右衛門町は岡田嘉右衛門という人物によって16世紀末から17世紀初頭にかけて開かれた嘉右衛門新田村を起源とする。江戸時代中期の貞享2年(1685年)に旗本であった畠山氏の知行地となり、元禄2年(1689年)には畠山氏によって知行地を管理する為の陣屋が岡田家の屋敷内に置かれている。岡田家の当主は代々嘉右衛門を名乗り、江戸時代を通じて郷代官を務めていた。また江戸時代には栃木商人が周辺地域の商売を独占しており、嘉右衛門新田村では大規模な商売が行われていなかったものの、明治時代に入るとその規制が無くなり、様々な種類の商家が建ち並んで賑わったという。また嘉右衛門新田村が嘉右衛門町と改められたのも明治時代に入ってからの事だ。




嘉右衛門町中心部の町並み
左手前の店舗は栃木県最古の理髪店であるという

 現在の町割は明治9年(1876年)の字切図とほぼ一致しており、江戸時代末期からの町割が現在にまで良好に受け継がれている。各戸の敷地は例幣使街道に沿って短冊形に区画されており、表に面して主屋を建て、背後に蔵などの付属屋を並べている。間口が広い大家の場合は主屋に隣接して蔵を置く。主屋は黒漆喰を分厚く塗り込めた耐火構造の土蔵造、もしくは外部を板張りとした真壁造が多く、桟瓦葺の切妻屋根平入のものが一般的である。ファサードを洋風に仕上げた商家も見られるなど、変化のある町並みとなっている。蔵はいずれも桟瓦葺切妻屋根の二階建てであり、白漆喰で仕上げた土蔵の他、地元栃木県で採れる大谷石や深岩石を用いた石造のものも多い。




嘉右衛門町北側のY字路に立つ庚申塔

 栃木側から嘉右衛門町に入ると、例幣使街道はS字にカーブして岡田家の屋敷に差し掛かる。岡田家の北側に鎮座する神明神社は、岡田嘉右衛門が村を開いた当時の慶長年間(1596年〜1615年)に勧請したものであり、現在の社殿は昭和6年(1931年)の建立である。岡田家を境に例幣使街道は直線の道となり、その先で街道が左右に分岐するY字路に当たる。そこに立つ庚申塔には、寛政12年(1800年)の銘と共に「右 日光をざく道、左 三日月道」と刻まれている。また嘉右衛門町の北側に店舗を構える油伝(あぶでん)味噌は天明年間(1781年〜1789年)創業の味噌屋であり、その主屋は明治時代中期、中蔵と東蔵は明治時代前期に建てられたのものだ。




蔵が建ち並ぶ巴波(うずま)川の平柳河岸跡

 嘉右衛門町を南北に通る例幣使街道に並行して、その西側を巴波川が流れている。足尾山地の扇状地から湧き出た清水を源流とするこの川は、田畑に水を供給する灌漑用水としての用途の他、下流で江戸へと続く利根川に合流する事から水運にも盛んに利用され、物流の要として栃木の経済を支えてきた。巴波川には商品の荷揚げの為の河岸が沼和田、栃木片柳、平柳の三ヶ所に設けられていたが、現存するものは嘉右衛門町に隣接する平柳河岸のみとなっている。その平柳河岸跡には、今もなお水運が盛んであった当時の繁栄が偲ばれる土蔵が建ち並んでおり、例幣使街道の町並みとはまた一味違った景観を作り出している。




緑豊かな扇島に敷地を構える岡田家別邸

 嘉右衛門町の南西部には、巴波川と水路によって囲まれた翁島と呼ばれる一角が存在し、その広大な敷地に岡田家の別邸が建っている。これは岡田家の22代当主である岡田孝一氏が隠居所として建てたものであり、主屋は大正13年(1924年)の竣工、土蔵は昭和3年(1928年)の竣工だ。陣屋として使われていた例幣使街道沿いの岡田家本邸は、まるで城郭のような重厚な構えであるのに対し、別邸は緑豊かな木々が生い茂り、豊富な水を湛えた庭園が広がるなど、別邸にふさわしい落ち着いたたずまいである。主屋の廊下は6間半の長さがある檜の一枚板が使われており、また座敷にも数多くの銘木がふんだんに用いられ、その財力の高さをうかがい知る事ができる。

2011年01月訪問




【アクセス】

東武鉄道日光線「新栃木駅」より徒歩約15分。
JR両毛線「栃木駅」より徒歩約30分。

【拝観情報】

町並み散策自由(ただし、住民の迷惑にならないように)。