萩市佐々並市

―萩市佐々並市―
はぎしささなみいち

山口県萩市
重要伝統的建造物群保存地区 2011年選定 約20.8ヘクタール


 江戸時代に長州藩の城下町であった萩と、現在の山口県庁が置かれている山口のほぼ中間に位置する佐々並市は、長州藩の主要街道であった「萩往還(はぎおうかん)」の宿場町として近世初頭に整備された山間集落である。その町並みは東西に流れる佐々並川の南北両岸に広がっており、現在は宿駅施設等は失われたものの、藩主の宿泊所であった御茶屋を起点として成立した町割が良好に現存している。萩往還に沿って江戸時代末期から昭和初期にかけて築かれた茅葺や桟瓦葺の主屋が連なる光景は、周囲に広がる棚田等と共に萩往還の宿場町としての歴史的風致を今に伝えていることから、東西約850メートル、南北約1420メートルの範囲が国の伝統的建造物群保存地区に選定されている。




御茶屋跡から続く上ノ町(かみのちょう)

 かつて中国地方に一大勢力を誇っていた毛利輝元(もうりてるもと)は、慶長5年(1600年)の関ヶ原の戦いにおいて西軍の総大将であったことから防長二国に減封され、慶長九年(1604年)に新たに築いた萩城へと居を移した。萩は近世城郭を築くのには適しているが、日本沿岸のため主要街道である山陽道から距離がある。そこで輝元は藩内の主要街道として萩から山口を経由して瀬戸内海沿岸の港町である防府の三田尻へ最短距離で至る萩往還を整備した。佐々並市はこの時に設置された宿駅のひとつであり、輝元が萩へと入る際に休憩した寺院に藩主の休泊所である御茶屋を置き、慶長年間(〜1615年)には現在に通じる宿場町が成立していたと考えられている。




商工業者が集まる在郷町でもあった中ノ町(なかのちょう)

 南側の三田尻・山口方面から佐々並市に入った萩往還は、御茶屋の前で西に折れ、上ノ町を通って北に折れ、中ノ町を経て佐々並の南岸に設けられた高札場へと至る。佐々並川を渡って久年(くどし)に入ると、西岸寺(さいがんじ)の門前で西に折れ、萩方面へと続いていく。当初、萩往還沿いに並ぶ家数は62軒に及び、普段は農業を営みつつ、上ノ町では上級藩士の宿泊施設である御客屋の木村家や井本家など主に宿役を担い、中ノ町は人馬の継立を行う目代所(もくだいしょ)や商工業、久年は主に人馬送りの役を担うなど町によって機能が分担されていた。以降、佐々並市は江戸時代を通じて参勤交代にも使用される長州藩の宿場町として維持されていった。




佐々並川の北岸に位置する久年の町並み

 幕末の元治二年(1865年)には高杉晋作(たかすぎしんさく)率いる奇兵隊と長州藩の戦いにより被災したが、間もなく復旧されている。明治時代に入ると御茶屋は廃止されたものの、明治19年(1886年)には御茶屋の跡地に佐々並小学校が築かれ、また大正6年(1917年)には中ノ町に佐々並村役場が置かれるなど、地域の中心を担っていった。その後、佐々並川南岸の拡張や久年を東西に横断する県道の敷設などの変更はあったものの、元文五年(1740年)の「防長地下上申附村絵図」に描かれている構成がよく残っており、明治21年(1888年)の地籍図と地割がほぼ一致するなど、矩折れが連続する特徴的な宿場町の町並みが今もなお維持されている。




久年の主屋南側に設けられている納屋へと直接続く通路

 各家は主屋の他に土蔵(クラ)、納戸(ナガヤ)、離屋(ヘヤ)などから成り、昔ながらの屋敷構えを今に伝えている。地割は間口が狭く奥行が深い短冊形が基本であるが、上ノ町では北側に水路、南側に崖が迫ることから奥行きが浅くなっている。上ノ町や中ノ町では萩往還に面して間口いっぱいに主屋を建て、敷地の奥に土蔵や離屋を建てるものが多い。一方で馬役を担っていた久年は敷地奥の牛馬小屋を兼ねる納戸から迅速に馬を引いて出せるよう、主屋の南側に通路を設ける家がある。主屋は茅葺の寄棟造平入で平屋建と、桟瓦葺の切妻造平入で厨子二階及び本二階建てのものが混在する。瓦は赤い石州瓦が多いが、これは明治以降に普及したものだ。




萩往還の北側から佐々並市を望む
萩往還の古道区間は国の史跡に指定されている

 厨子二階の家は木部を塗り篭めた大壁とし、虫籠窓を開き、袖壁を付ける。大正時代以降の本二階建は木部を見せる真壁造となり、ガラス戸と雨戸を入れ、前面に手摺を設けるものもある。集落の南端に鎮座する貴布祢(きふね)神社の本殿は文化八年(1811年)の建造であり、北端にあたる西岸寺には元文三年(1738年)建造の本堂や嘉永三年(1850年)が残る。また佐々並市から南側の板橋垰(いたばしだお)及び北側の千持垰(せんもちだお)へと続く萩往還沿いには石積の棚田や水路が築かれており、集落と共にまとまりある萩往還の景観を残していることから、これらの棚田もまた重要伝統的建造物群保存地区の選定範囲に含まれている。

2022年09月訪問




【アクセス】

・JR山口線「山口駅」から中国JRバス防長線「東萩駅前」行きで約40分、「佐々並」バス停下車、徒歩約3分。
・JR山陰本線「東萩駅」「萩駅」または「萩バスセンター」から中国JRバス防長線「山口駅、湯田温泉駅前」行きで約35〜50分、「佐々並」バス停下車、徒歩約3分。

【拝観情報】

・町並み散策自由(ただし、住民の迷惑にならないように)。

【参考文献】

・「月刊文化財」平成23年7月(574号)
萩市佐々並市|国指定文化財等データベース