室生寺金堂、室生寺本堂(灌頂堂)、室生寺五重塔

―室生寺金堂―
むろうじこんどう
国宝 1952年指定

―室生寺本堂(灌頂堂)―
むろうじほんどう(かんじょうどう)
国宝 1952年指定

―室生寺五重塔―
むろうじごじゅうのとう
国宝 1951年指定

奈良県奈良市


 三重県との県境に程近い、奈良県の山間いにひっそりたたずむ室生の里。室生川が刻んだ渓谷の北岸、室生山の麓から山腹にかけて、室生寺の伽藍が広がっている。奈良時代末期、賢m(けんきょう)ら興福寺の僧侶五人が、後の桓武天皇(かんむてんのう)である皇太子の病気平癒をこの地で願い、見事回復を遂げた事から勅願により創建された山林道場、それが室生寺だ。女人禁制の高野山とは異なり、女性の参詣を受け入れたことから女人高野と称される室生寺は、その石段に沿って数多くの古建造物が並んでいる。中でも本尊の釈迦如来立像を祀る金堂、灌頂の儀式が行われていた本堂、そして小ぶりながらも優雅にそびえる五重塔が、それぞれ国宝に指定されている。




本尊の釈迦如来立像を安置する室生寺金堂
かつては礼堂が無く、中央に設けられた階段を上がり、参拝していた

 室生川の清流は竜神信仰を生み、かつて室生寺では雨乞いの祈願も行われていた。その流れに架かる太鼓橋を渡り、仁王門を経て鎧坂と呼ばれる石段を登ると、二段の石垣の上に建つ、平安時代前期建立の金堂が現れる。その規模は桁行、梁間共に五間。屋根はこけら葺き、寄棟造の平入である。手前一間は礼堂(らいどう)と呼ばれ、江戸時代の寛文12年(1672年)に増築されたものだ。礼堂部分の屋根は、縋破風(すがるはふ)の付いた葺き下ろしとなっている。それ以前、鎌倉時代末期にも大修理が行われており、その際には多くの部材が取り替えられたという。また、建物の正面と左右には縁が付いており、この縁と礼堂の部分のみ、足の長い懸造(かけづくり)となっている。




石楠花越しに見る金堂側面
礼堂の部分は縋破風の付いた葺き下ろしとなっている

 金堂の正面、礼堂の中央三間には板戸が開かれており、両脇一間は連子窓が設けられている。礼堂以外の後方四間、平安時代からの建物である正堂には窓が少なく、側面に設けられている連子窓も後世の改修によるものだという。金堂の内部には須弥壇が置かれ、本尊の釈迦如来立像を中心に、左手に文殊菩薩立像と十一面観音立像、右手に薬師如来立像と地蔵菩薩立像が安置されており(いずれも平安時代)、それらの前には鎌倉時代の十二神将立像が立ち並ぶ。本尊の背後の板壁には、帝釈天を中尊とする曼荼羅図が描かれているが、これは非常に珍しい。なお、金堂の左手には、弥勒菩薩立像と釈迦如来坐像を安置する、鎌倉時代建造の弥勒堂が建っている。




巨大な入母屋造の屋根が印象的な室生寺本堂

 金堂の左手上方には、鎌倉時代後期の延慶元年(1308年)に建てられた本堂がある。五間四方で、屋根は檜皮葺の入母屋造。日本古来の和様を基調として、鎌倉時代に宋より伝わった大仏様を取り入れた、折衷様となっている。室生寺はその創建に携わった興福寺の法相宗以外に、真言宗、天台宗の密教道場としても機能していた。この本堂は、かつて真言密教における最も重要な儀式、灌頂が行われていた建物であり、江戸時代後期までは灌頂堂と呼ばれていた。内部は外陣と内陣を板扉で分かち、そのうち外陣は四方に扉を開く開放的な作り。対照的に内陣は三方は壁であり、閉鎖的である。内陣中央には如意輪観音像が安置され、左右には金剛界と胎蔵界の両界曼荼羅が掲げられている。




石段の上にそびえる室生寺五重塔

 本堂よりさらに石段を上がったところ、高く聳える木々に囲まれるように、小ぶりながらも美麗なる五重塔がたたずんでいる。屋外設置の五重塔としては日本最小、総高約16.1メートル程度のその塔は、空海が一夜にして建てたという逸話が伝えられている。しかしながら、三手先の組物や、地垂木に断面の丸い丸垂木が使われているなど、建築的な特徴は奈良時代末期の様相を伝えており、空海が活躍した時よりさらに前、室生寺の創建に近い、平安時代最初期に建てられたものと考えられている。初重の幅はわずか2.45メートル四方だが、平面の規模と比較して高さは結構あり、また古式の塔にしては逓減率が低く、結果的に細身で繊細な、女性的な印象を受ける塔となっている。




五重塔の初重部分
赤、白、黄、黒のコントラストが美しい

 室生寺五重塔は、どの層も三間四方で、中央間のみ唐板戸が入り、脇間は白壁だ。二重以上には高欄付きの縁が巡らされている。塔頂部の相輪には、通常の水煙ではなく、宝瓶(ほうびょう)と呼ばれる球形の器が乗る。寺伝によると、賢mの弟である修円(しゅえん)が、この宝瓶に竜神を封じたのだという。なお、この五重塔は、1998年の台風によって倒木が直撃し、屋根が大破する甚大な被害を受けた。その後修理がなされ、彩色も新たに、在りし日の美しい姿が蘇った。五重塔の背後には、奥の院へと続く参道が伸びている。石段を上り詰めたその先に鎮座する御影堂は、鎌倉時代から室町前期代頃に建てられたもとされで、全国に存在する御影堂の中でも最古級のものだという。

2010年04月訪問




【アクセス】

近鉄大阪線「室生口大野駅」より奈良交通バス43系統「室生寺前行き」で約15分、「室生寺前バス停」下車、徒歩約5分。

【拝観情報】

拝観料600円。
拝観時間は8時〜17時(冬季は8時〜16時、入場は拝観終了30分前まで)。