富貴寺大堂

―富貴寺大堂―
ふきじおおどう

豊後高田市
国宝 1952年指定


 大分県、瀬戸内海に丸く突き出た国東半島。両子山(ふたごさん)などの山塊を中心に、尾根と谷が放射状に海へと伸びるその土地は、古からの山岳信仰をベースとした、独自の神仏習合信仰が育まれてきた聖地である。半島内には数多くの天台寺院が建てられ、それらの寺院は総称して「六郷満山」と呼ばれていた。六郷と付くのは、当時国東半島内に主だった集落が六ヶ所あった為だ。その六郷の一つである田染(たしぶ)郷の西にそびえる西叡山には、六郷満山の筆頭として国東半島の寺院を統括していた高山寺がある。富貴寺は、その高山寺の末寺の一つだ。富貴寺の境内には、平安時代末期に建てられた貴重な阿弥陀堂形式の大堂が今もなお残されている。




石造の仁王が山門を守る富貴寺の入口

 険しい地形を有する国東半島は、古来より山岳信仰が盛んであった。奈良時代になると、仏教がこの地にも伝来し、それまでの山岳信仰は天台密教に取り込まれ、さらに国東半島北西に鎮座する宇佐神宮の影響の下に八幡信仰とも混じり合い、他とは違う国東半島独自の信仰文化が誕生した。半島内各地にあった山岳信仰の場には寺院が建てられ、六郷満山が成立したのだ。富貴寺の創建は、寺伝によると奈良時代の養老2年(718年)、仁聞(にんもん)という僧侶が開いたとされているが、六郷満山の多くが仁聞開基と伝わっており、あまりに伝説じみている為、その正確な由緒は不明のままだ。なおこの仁聞は、宇佐神宮の主祭神、八幡神を表しているとも考えられている。




正面から見る富貴寺大堂

 富貴寺はその山号を蓮華山と言い、田染に程近い蕗(ふき)の地にたたずむ事から、かつては蕗寺と書かれていた。石造の仁王像が睨みを利かせる仁王門をくぐり、石段を登ったその先、カヤの巨木の奥に建つ大堂は、阿弥陀信仰が盛んであった平安時代末期に築かれた、貴重な阿弥陀堂建築の一つである。近畿より西には、これ以外に阿弥陀堂建築は無く、またこの大堂は現存する九州最古の木造建造物でもある。伝説によると、この地にそびえていたカヤの大木を切り倒して大堂を建て、また同じを使って大堂の本尊である阿弥陀如来坐像を刻み、それでもなお材木が余ったので、田染の南に真木大堂を建てたという(ただし、現存する真木大堂は平安時代のものではない)。




建物の外観は簡素なものとなっている

 富貴寺大堂の規模は、桁行三間に梁間四間。屋根は一重の宝形造で、大きく緩やかな美しいカーブを描いている。瓦葺きであるが、一般的な本瓦葺きではなく、先細りした形の丸瓦を使用した、より古い様式の行基葺きとなっている。正面三間と左右の手前二間、背面の中央一間には両開きの板戸がはめられ、建物の周囲には縁が巡らされている。柱は角柱だが、幅広く面取りされた大面取(おおめんとり)であり、これが平安時代の建物である事を裏付けている。面取りは古い時代であるほど広く、時代が下るにつれ細くなっていくのだ。柱の上には舟肘木(ふなひじき)が乗り、垂木は二重の繁垂木(しげだるき)。比較的簡素な外観ながら、安定感のある建造物となっている。




軒瓦には聖観音の姿が彫られている

 大堂の内部には四天柱が立ち、その内側の内陣には須弥壇が置かれ、本尊の阿弥陀如来坐像(重要文化財)が安置されている。建物の幅が三間であるのに対し、奥行きは四間と奥に広い為、四天柱および来迎壁は一間分後退して立てられており、手前の礼拝スペースが広く取られている。このように、内陣を後退させている仏堂は、この富貴寺大堂が最古の例であるという。天井はすべて小組格天井で、内陣のみ格の高い折上小組格天井である。また、大堂内部の各所には、来迎壁の阿弥陀浄土変相図を始め、柱や小壁など、各種諸尊像の壁画が描かれている。これらの壁画は剥落が多いながら、平安時代の仏画を今に伝える貴重な例として、重要文化財に指定されている。




江戸時代の六地蔵石憧(せきとう)と室町時代の石殿(せきでん)
国東半島には磨崖仏など石造の遺物が数多く残されている

 このように、富貴寺大堂は非常に貴重な建造物であるが、その価値が認められるまでは、長い間荒廃の憂き目に遭っていた。特別保護建造物に指定された明治40年代には解体修理が行われたものの、その後の第二次世界大戦、北九州を爆撃したB29が国東半島に余った爆弾を投げ捨て、それが富貴寺大堂のすぐ側で炸裂。爆風により大堂の屋根や扉が吹き飛んだという。終戦直後の昭和20年代にすぐさま修理が行われ、外側の部材が数多く取り替えられた。その後、昭和40年に屋根が行基葺に直され、富貴寺大堂は現在に見られる姿となったのだ。数多くの修理、部材の交換が行われてもなお国宝に指定されているのは、建物、壁画の価値がそれを上回るものだからに他ならない。

2010年07月訪問




【アクセス】

「豊後高田バスターミナル」より車で約15分。
JR日豊本線「中津駅」、JR日豊本線「宇佐駅」より徒歩約5分の「岩崎バス停」、または「豊後高田バスターミナル」から県北快速リムジンバス「大分空港」行き乗車、「田染中村バス停」下車、徒歩約1時間。

【拝観情報】

拝観料200円、拝観時間8:30〜16:30。
ただし雨天の場合大堂内部の拝観不可。その場合の拝観料は無料。

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