二条城二之丸庭園

―二条城二之丸庭園―
にじょうじょうにのまるていえん

京都府京都市
特別名勝 1953年指定


 京都府中京区、二条通りと堀川通りが交差する地に構えられた二条城。それは天下分け目の関ヶ原を制した徳川家康が、上洛時の居城として慶長4年(1601年)に築城を命じた平城である。慶長8年(1603年)にひとまずの完成を見た二条城は、家康を始めとする徳川三代によって用いられ、また幕末の慶応三年(1867年)には二の丸御殿の大広間にて江戸時代の終焉を告げる大政奉還が行われた。その二の丸御殿から望む西側には、建築及び作庭の名手として名高い小堀遠州(こぼりえんしゅう)の手による池泉回遊式庭園が広がっている。遠州の代表作として著名なこの二条城二の丸庭園は、現存する城郭庭園のうち最も優れた景観を見せる庭として国の特別名勝に指定されている。




豪宕な石組によって護岸された二の丸庭園の池汀

 今に見られる二の丸庭園は二条城築城当時のままではない。寛永元年(1624年)に江戸幕府第三代将軍となった徳川家光(とくがわいえみつ)は、後水尾天皇の行幸を迎えるべく二条城の再整備を行った。その際、作事奉行に任命された小堀遠州により、この二の丸庭園もまた改修されているのである。家光より後の時代になると二条城は使用されなくなり、落雷や大火によって天守と本丸の建造物が失われている。二の丸御殿とその庭園も荒れ果てたが、幕末の文久2年(1862年)には江戸幕府第14代将軍徳川家茂(とくがわいえもち)の上洛に伴う整備が行われている。また宮内省の所管となった明治時代以降にも度々修繕の手が加えられ、そうして現在に見られる景観となった。




庭園東部より南部を望む
後水尾天皇の行幸時にはこの左奥に行幸御殿が建てられていた

 現在の二の丸庭園は、御殿の大広間が面する東側、及び黒書院が面する北側から眺める庭園として公開されているが、小堀遠州が改修を行った当時には池の南側に天皇が滞在する為の行幸御殿が建てられていた。故に遠州は東側、北側のみならず、南側からの眺めを重視した庭園とした。どの方向からも素晴らしい眺望が得られるように改修されたこの庭園は、八方から眺められるという意味を込め、またそれを中国三国時代の知将である諸葛孔明(しょかつこうめい)が考案した八陣に例え、「八陣の庭」と名付けられた。なお、後に行幸御殿の建物は、上皇となった後水尾上皇の仙洞御所へと移築されており、現在その跡地には芝生が敷かれ、多数の松が植えられている。




ダイナミックかつ絢爛豪華な風情を見せる石組と橋

 庭園の中心を担う池には蓬莱島という名の中島が浮かんでおり、その南側には鶴島が、北側には亀島が配されている。これらは大陸より伝わった神仙蓬莱思想を表したもので、池を海、島を仙人の住む蓬莱山と見立てることで永遠なる繁栄の願いを表している。鶴島と亀島は、その名の通り鶴と亀をそれぞれ模した島であり、鶴島には羽を表す三角形の羽石と鶴の首を表する鶴首石が、また亀島には亀の頭を表す亀頭石が据えられている。蓬莱島の石組みは特に複雑であり、鶴島と共に見えるアングルでは亀の姿に見え、亀島と共に見えるアングルでは鶴の姿に見えるよう組み上げられており、どの方向から見ても常に鶴と亀が対を成すよう工夫されている。




庭園北西部にこぢんまりと流れる滝組
この水の流れは明治に作られたもので、本来はこの右側を流れていた

 池汀は変化に富んだ曲線を有しており、またそれらの汀や島々は石組により護岸されている。用いられている石材は派手なものが多く、広壮豪宕な桃山様式の庭園に仕上がっており、同じく桃山様式の二の丸御殿との調和を見せる。庭園の随所には自然石を用いた橋が架けられ、それらは無数の石組と相まってリズミカルな景観を作り出している。北西の隅には滝組が設けられているが、現在水が流れる二段の滝組は明治時代の改修によるもので、本来はその横にある三段の滝組に水が流れており、行幸御殿から望むことができた。なお、現在庭園の西側には多種多様な木々が茂り、庭園を縁取っているが、作庭当時にはこれらの木々は無く、大広間から天守を見る事ができたという。




蘇鉄は寒さに弱い為、冬の間は「こも」が巻かれる

 庭園の北東には巨大な蘇鉄が植えられている。南方系の植物である蘇鉄は当時珍しく、富と権力の象徴として時の権力者に好まれた。京都において蘇鉄が植えられている庭園は、この二条城に加えて本願寺と桂離宮の三ヶ所だけだ。二条城のものは、肥前佐賀藩の初代藩主である鍋島勝重(なべしまかつしげ)が後水尾天皇の行幸に際し蘇鉄を一本献上したという記録が残っており、また江戸時代中期にあたる第八代将軍徳川吉宗(とくがわよしむね)の時代にも15本の蘇鉄が存在した事が絵図より確認できる。現存するものが当時のものかは不明であるが、これらの記録から、小堀遠州が改修した当時よりこの庭には蘇鉄が植えられていた可能性が高いと言える。

2008年02月訪問
2009年04月再訪問
2011年02月再訪問




【アクセス】

「京都駅」より京都市バス9、50、101系統で約15分、「二条城前バス停」下車すぐ。

【拝観情報】

拝観料600円。
拝観時間は8時45分〜17時(拝観受付は16時まで)、但し、年末年始(12月26日〜1月4日)、および毎年12月、1月、7月、8月の毎週火曜日(休日の場合は翌日)は休館。

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