識名園

―識名園―
しきなえん

沖縄県那覇市
特別名勝 2000年指定


 沖縄県那覇市、琉球王国の王城であった首里城から、直線距離にして南へ1.5kmほど行った所にある識名園は、1469年から1879年まで琉球王国を統治していた第二尚氏の別邸として造営された琉球庭園である。日本本土の庭園や中華庭園とは違うその独特な庭園は、昭和16年(1941年)に国の名勝に指定されたものの、第二次世界大戦でその全てが破壊され壊滅してしまう。しかしながら、幸いにも庭園の地割は旧態を保っていたことから、昭和51年(1976年)に再び名勝指定を受けて庭園の整備がなされ、建物も復元されかつての姿を今に蘇らせた。その後2000年には特別名勝に指定され、またその同年、首里城などと共に「琉球王国のグスク及び関連遺産群」として世界遺産リストに記載されるに至った。




正門から心字池へと続く石畳
かつてこの石畳は識名園の正門から首里城まで続いていた

 識名園の造営が開始されたのは、第二尚氏王統の第14代国王、尚穆(しょうぼく)の時代(1752年〜1795年)であると伝えられており、その完成は第15代国王、尚温(しょうおん)が在位していた1799年である。王家の別邸であった識名園は、首里城の南にあったことから南苑とも呼ばれ、王家一族の保養所や、中国からの使者である冊封使(さっぽうし)を迎える迎賓館として機能していた。首里城とは琉球王国によって整備された真珠道と呼ばれる石畳の道によって結ばれており、今でも識名園の正門から池にかけて真珠道の石畳が残されている。真珠道は首里城と識名園を結ぶ道の他、首里城と那覇港をも結んでおり、首里城近くに残る金城石畳道もまたその道の一部である。




池の小島に架けられた中華風の石造アーチ橋

 識名園は池を中心としてその周囲に散策路や築山、建物などを配した池泉廻遊式庭園である。池泉廻遊式庭園は江戸時代に日本各地の大名が競って築庭した形式の庭園で、識名園もまたそれに倣い、心という字を崩した形の心字池を中心に据えている。しかしながら六角堂やアーチ橋といった中華風の意匠を持つ部分も見られ、また池の淵には琉球石灰岩が積まれ、ほとりには赤瓦屋根を持つ沖縄伝統建築の御殿(ウドゥン)が建つなど、琉球様式と中華様式が混ざり合った独自の折衷様式を成しており、琉球ならではの趣を持つ庭園となっている。その規模は41997平方メートルであり、これは琉球王国に作られた別邸の中で最大の面積を誇るものである。




アーチ橋越しに見る沖縄伝統建築様式の御殿

 心字池の北側に建つ沖縄伝統様式の御殿は、上流階級のみに許されていた格式の高い作りとなっている。しかしながら、アマハジ(雨端)と呼ばれる庇が張り出しているなど、民家風の意匠も取り入れられている。建物内には冊封使を迎えた客間である一番座を始め、二番座、三番座、茶の間など数多くの部屋が連なっており、その総数は15部屋。また、庭園内に植えられている植物は、松や梅、柳などといった本土でも馴染み深い温帯性植物のみならず、フクギやアカギ、デイゴといった沖縄ならではの熱帯性植物も数多く見る事ができる。これらもまた、極めて独自性の高い庭園の景観を作に欠かせない識名園の重要要素となっている。




溢れた池の水はこの滝口から庭園下へと落ちていく

 識名園は首里城より川を挟んだ台地の端に位置している。そこは湧き水が豊富な場所であり、園内から湧き出た水は心字池を満たした後、池から溢れた水は滝口を通って台地の下へと落ちていく。この滝口の側にはかつて八角堂と呼ばれる東屋があり、暑い沖縄の中で涼を取るのに用いられていた。滝口の近くには勧耕台(かんこうだい)と呼ばれる見晴らしの良い展望台があるが、そこからは陸地が広がる光景のみを見る事ができ、海は一切視界に入らない。かつて王は、中国から冊封使が来るとここへ通し、琉球は小さな島ではなく、これだけの広い国土を有しているとアピールしたのだという。




かつてシマチスジノリが生息していた育徳泉(いくとくせん)

 識名園の水源の一つに育徳泉と呼ばれる泉がある。そこはかつてシマチスジノリと呼ばれる希少な紅藻類が生息していたことから、「識名園のシマチスジノリ発生地」として天然記念物に指定されている。通常、紅藻類は海水で生息するのに対し、シマチスジノリは淡水に生息している非常に珍しい種の紅藻類である。かつては沖縄20ヶ所以上の湧水井戸で見られたというが、現在その生息地は極めて限られており、環境省のレッドデータブックに絶滅危惧T類として記載されている。なお、育徳泉のものは既に絶滅しており、現在シマチスジノリが生息しているのは今帰仁村のアミスガーと、具志頭村の屋富祖井(ヤフガー)ただ二ヶ所のみである。

2010年01月訪問




【アクセス】

那覇中心部より那覇交通バス首里識名線、識名線に乗車、「識名園前バス停」下車すぐ。

【拝観情報】

拝観料300円。
拝観時間は4月〜9月が9時〜17時30分、10月〜3月が9時〜17時。
水曜日休園。但し水曜日が祝日、または慰霊の日(6月23日)にあたる場合は翌日休園。

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