―玉陵―
たまうどぅん
沖縄県那覇市 国宝 2019年指定 永享元年(1429年)から明治初頭に至るまで沖縄の島々を統治していた琉球王国。その王城であった首里城の西側、木々によって囲まれた静謐な一角に第二尚王統の歴代国王とその家族の陵墓である「玉陵」が存在する。第二尚王統第三代国王の尚真王(しょうしんおう)が初代国王である尚円王(しょうえんおう)を改葬するため弘治14年(1501年)頃に築かせたもので、琉球特有の陵墓形態である破風墓として最古かつ最大の例である。東アジアにおいて独自に発展した琉球の建築様式と葬墓制を象徴する石造建造物であることから、沖縄県では初の国宝建造物に指定された。なお、その敷地は国の史跡に指定されており、世界遺産『琉球王国のグスク及び関連資産群』の構成要素にも含まれている。 玉陵は首里城から連続する尾根の北側に位置しており、東西42メートル、南北57メートルの石牆(せきしょう、石垣)を廻らせて墓域としているが、それは方形ではなく東辺を屈曲させた不正型な五角形である。石牆の高さは3メートル前後、底部の厚さは約1.8メートルであり、首里城など琉球のグスクと同様に四隅を丸く仕上げている。石牆で囲んだ墓域のうち南奥に墓室を設け、北手前のやや西寄りに第一門を開く。墓室の前に広がる前庭は中門を伴う石牆によって内庭と外庭に仕切られており、そのうち内庭には聖域であることを示す珊瑚の破片が敷き詰められている。第一門および中門は左右の石牆よりも高く築かれており、精緻な切込み接ぎの布積みで王陵らしい格式を醸している。 玉陵の墓室は東室(とうしつ)、中室(ちゅうしつ)、西室(せいしつ)の三棟が並んでおり、東室の左側および東室と中室の間、西室の右側の三箇所に塔状の円形張り出しを設け、その上部に石獅子を載せている。三棟の墓室のうち東室はほぼ北面しているものの、中室と西室はやや北東にずらして築かれており、くの字状の平面となっている。一見するとそれぞれ個別に石造で築かれているように見えるが、実際は自然の岩窟を覆うように切石を積んで築かれており、切妻造の屋根も岩盤の上に掛けられている。このような形式の破風墓は、洞穴内に築いた木槨に遺骨の入った厨子を納める形式から、洞穴の前面を閉塞して厨子を納める形式へと発展してきた琉球王陵の流れを汲むものである。 三棟の墓室のうち、中室は遺体を安置するための葬所であり、東室と西室は遺骨を納めるための墓所である。遺体はまず始めに中室に安置され、白骨化した後に洗骨して石厨子に納め、王と王妃は東室に、それ以外の王族は西室に納骨されていた。このように葬所と墓所が一体化している王陵は世界的にも珍しいという。いずれの墓室も正面に五級の石階を備え、入口は楕円アーチを造り出した楣石(まぐさいし)を渡し、桟唐戸形式の石扉を設けている。各墓室の前壇には親柱に笠石を渡して中間に束を立て、親柱と束の間に羽目石を入れた造りの高欄が巡らされており、それぞれの親柱には獅子が彫られ、また羽目石には龍などの霊獣や花卉などのレリーフが刻まれている。 中室は間口が8.3メートル、内法は東西6.5メートル、南北6.7メートルの規模で、背面の両隅を円弧とした台形平面である。内部の中央には3.6メートルのヒンプン(石壁)を備え、室内を前後に区画している。後室の中央には掘り込みと台石を据えたシルヒラシ(棺安置所)を設け、また左背後には家形厨子1基を納めている。西室は間口が8.2メートル、内法は東西5.9メートル、南北4.6メートルの台形平面である。正面以外の三方に壇を巡らしており、家形厨子32基を納めている。東室は間口9.8メートルであり、内部は内法東西4.1メートル、南北3.8メートルの主室を中心に、東脇室、西脇室、東奥室、西奥室の5室から成り、家形厨子を大半とする37基の厨子を納めている。 墓室の周囲に岩肌が露出するなど、玉陵は自然の地形を極力変更することなく巧みに利用しており、その対称性のないグスクに似た空間構造からは琉球建築の精神性を伺うことができる。他に類を見ない壮大な陵墓建築であるが、第二次世界大戦の沖縄戦において首里城は日本陸軍第32軍総司令部が置かれていたことから米艦隊の集中砲撃を受け、玉陵もまた東室や西室が大破するなど甚大なる被害を受けた。その後、大規模な修復工事が行われ、昭和52年(1977年)に元の姿に復元された。首里城の正殿や守礼門など、戦災によって数多くの歴史的建造物が失われた沖縄において、玉陵は琉球の建築様式を伝える建造物としても極めて重要な存在である。 2010年01月訪問
2019年05月再訪問
【アクセス】
ゆいレール「首里駅」から徒歩約15分。 ゆいレール「首里駅」から沖縄バス「首里城下町線」で約3分、「首里城前」バス停下車、徒歩約1分。 【拝観情報】
・拝観時間:9時〜18時、年中無休。 ・拝観料:大人300円、小学生150円。 ・識名園(特別名勝) 【参考文献】
・月刊文化財 平成31年1月(664号) Tweet |