南丹市美山町北

―南丹市美山町北―
なんたんしみやまちょうきた

京都府南丹市
重要伝統的建造物群保存地区 1993年選定 約127.5ヘクタール


 京都府北部、丹波の山間地域に広がる南丹市美山町。美山という名の通り、美しい山々が連なるその合間を縫うように蛇行して流れる由良川は、所々に小ぢんまりとした盆地を多数作り出した。それらの小盆地には人が住まい、田畑が拓かれ、集落が形成された。その由良川沿いに点在する集落の一つである北集落には、東西約600メートル、南北約300メートル程の範囲に、総勢50戸の茅葺民家が建ち並んでいる。現在の日本において、これほどの密度で茅葺民家が建つ例は他に無く、その幾重にも茅葺屋根が折り重なった景観は壮観の一言。それはまさに山村の原風景と言うべきものであり、日本を代表する茅葺の里としてその名を知られている。




北集落入口にたたずむ地蔵尊

 南丹市を始めとする丹波国の山間地域では、今でも数多くの茅葺屋根を目にする事ができる。特に南丹市に合併する前の旧美山町やその西隣の旧日吉町は、日本で最も茅葺屋根の民家が現存する地域であると言われている。由良川に沿って点在する集落において、茅葺屋根の民家を見ない所は無いと言っても過言ではない程だ。数多あるそれらの集落の中で、最も規模が大きく、かつ高密度で茅葺民家が残っているのが北集落なのである。近年の日本各地では、茅葺屋根が現存すると言っても、屋根を葺き替える事をせず、トタンで覆い隠してしまう家が多数を占める中、北集落ではそのほとんどが茅葺を露出した、昔ながらのスタイルを保っており、茅葺屋根の文化が良好に保たれている。




斜面に石垣を組んで平地を作り、家を建てている

 北集落はこの辺りの集落としては比較的歴史が浅く、江戸時代の初期に拓かれたと言われている。緩やかに斜面した土地に50戸の家屋が密集して建てられており、そのうち38戸が茅葺屋根の建造物である。最古のものは寛政8年(1796年)の建造で、それを含む18戸が江戸時代に建てられている。またそれ以外のものも、ほとんどが明治時代の建造と大変古い。明治時代から現在に至るまで、集落内の戸数もほとんど変化しておらず、当時の山村の姿を色濃く残している家並みだと言える。斜面に集落が形成されているが故、各家の敷地は石垣が積まれ、雛壇状に整地されている。また集落内には緑が多く、豊富な水を湛えた水路が引かれ、情緒ある風情を作り出している。




屋根裏では垂木が縄で固定されている様を見る事ができる

 美山町周辺に見られる茅葺屋根の民家は、民家史研究上では「北山型民家」と分類されている。その特徴は、大きな屋根の入母屋造で、雨漏りを防ぐ為に頭頂部は茅を厚く葺き、その大量の茅を押さえるのに神社建築に見られる千木のような「ウマノリ(馬乗)」を乗せている。ウマノリは「ユキワリ(雪割)」と呼ばれる細長い水平材にて繋がれ、茅葺屋根を安定させているのだ。妻面の破風には彫刻が施された懸魚が下がっており、またその下には家紋の形に穴が穿たれ、煙出しとしている。家屋の壁は土壁を用いず板壁とし、戸もまた木でできている。入口は、古いものでは妻側に玄関のある妻入であるが、後世のものは平側に玄関が設けられた平入に変わっている。




集落では様々な作物が育てられているが、中でもアワが印象的だ

 また、外部に露出した柱や梁が赤茶色である家が多く見られるが、これは雪などの湿気による腐食防止と害虫予防を兼ねて、ベンガラが塗られている為である。玄関内部の土間はやや狭く、土を盛って地面よりも高くする「アゲニワ(上げ庭)」となっているが、これもまた雪が深く積もる山村ならではの知恵である。土間の横には「ウマヤ」が設けられ、そこでは牛が飼育されていた。内部の間取りは、中央の棟木の筋で部屋を分け、食違いの田の字型に区切った「食違い四間取り」。ただし、今では住みやすいように何らかの改造が施されているのが普通であり、内部が昔のままである家はほとんど無い。屋根は合掌造りのように木材をハの字に組むだけでなく、梁と束で支える造りである。




ソバ畑越しに見る北集落全景

 集落の家並みを取り囲む平地には、実り豊かな田畑が広がっている。背後の山も緑深く、四季折々の美しい山村風景を演出し、訪れる者の郷愁を誘う。それら北集落の周辺環境もまた、家並みに不可欠な景観の構成要素である。それ故、美山町北重伝建の選定範囲は茅葺屋根の家並みのみならず、周囲に広がる田畑、山林を含めた集落景観全体に及んでいる。田畑の外側から集落を眺めると、そこに建ち並ぶ家々はほぼ同じ規模である事に気が付く。これは、集落内での貧富の差が少なく、概ね皆平等であった証拠である。唯一、かつて庄屋だった家が存在するが、それは屋根に乗るウマノリの数が通常の五つより二つ多い、七つであることから判別できる。

2010年09月訪問




【アクセス】

「京都駅」からJRバス「周山行き」で約75分、終点「周山」下車、南丹市営バス「京北線」に乗り換えて約30分、「宮脇バス停」下車、南丹市営バス「知井線」に乗り換えて約20分、「北(かやぶきの里)バス停」下車すぐ。

JR山陰線「日吉駅」から南丹市営バス「かやぶきの里行き」で約45分、「北(かやぶきの里)バス停」下車すぐ(日曜、祝日のみ)。

JR山陰線「園部駅」または「日吉駅」から南丹市営バス「園部美山線」で約40分、「宮脇バス停」下車、南丹市営バス「知井線」に乗り換えて約20分、「北(かやぶきの里)バス停」下車すぐ(平日、土曜のみ)。

いずれの路線も本数が少ない為、必ず時刻表、及び乗り換えの接続を確認する事。

【拝観情報】

町並み散策自由(ただし、住民の迷惑にならないように)。

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