―伊根町伊根浦―
いねちょういねうら
京都府伊根町 重要伝統的建造物群保存地区 2005年選定 約310.2ヘクタール 伊根浦は、日本海に突き出た丹後半島の北東部に位置する入り江である。南を若狭湾に面し、それ以外の三方を山に囲まれた伊根浦は、天然の良港として古くより漁業の拠点となってきた。現在も伊根浦では、江戸時代末期から昭和初期にかけての町並みが複雑な地形に沿うように建ち並ぶ、昔ながらの漁村集落を見ることができる。 伊根浦の集落景観を特徴付けているのは、何と言っても舟屋であろう。満潮時には、まるで海の上に浮かんでいるように見えるこの舟屋は、漁師たちが自分の舟を収容するいわば舟のガレージである。山の淵にへばりつくように連続する舟屋群は極めて特異。ここ伊根浦でしか見ることができない貴重な光景である。 これらの舟屋は、江戸時代以前から存在していたという。その頃は藁葺き平屋建ての簡素なものであったが、江戸時代中期頃になると半二階建てとなり、明治中期には藁葺きから瓦葺きに、そして昭和に入るとその多くは二階建てになった。二階部分はいつでも舟が出せるように若者が寝泊りしており、それゆえ「若衆宿」と呼ばれていた舟屋もあったという。 舟屋という伊根浦独自の建築が生まれた背景には、伊根浦の地形条件がある。入り江の入口にはまるで防波堤のような青島が浮かんでおり、湾内の干潮時満潮時の水深の差が少なく、かつ水面が非常に穏やかであること。また背後の山から斜面がそのまま海中へ落ち込んでいるため、岸のすぐ側から水深が深くなっていることなどから、半分海に沈んだような舟屋の建築が可能であったのだ。 昭和初期に道路が通るまで、伊根浦の集落には海から舟で入るしかなかった。つまり舟屋は、伊根浦に住む人々の玄関でもあった。舟屋から作業庭を挟んだ山側に建っているのが主屋である。現在伊根浦に通る道路は、連続する各戸の作業庭をぶち抜いて通したものであるため、道路から見て海側に舟屋や蔵が、山側に主屋が並ぶ。なお、舟屋は妻入のものが多く、主屋は平入のものが多い。 重要伝統的建造物群保存地区に選定されたエリアの範囲は、舟屋、主屋、蔵などの集落区域のみならず、集落背後にそびえる山や、入り江の入口を守る青島、そして入り江そのものなどの自然環境にも及んでいる。これは、伊根浦を取り囲む環境全体が歴史的な景観を形成していると評価されたためだ。 2007年11月訪問
【アクセス】
北近畿タンゴ鉄道宮津線「天橋立駅」より丹後海運交通バス「蒲入行き」または「経ヶ岬行き」で約1時間15分、「伊根バス停」下車すぐ。 【拝観情報】
町並み散策自由(ただし、住民の迷惑にならないように)。 伊根湾めぐり遊覧船を利用すれば海上から舟屋を見る事も可能。 ・宮津天橋立の文化的景観(重要文化的景観) ・牟岐町出羽島(重要伝統的建造物群保存地区) Tweet |