彦根市河原町芹町地区

―彦根市河原町芹町地区―
ひこねしかわらまちせりまちちく

滋賀県彦根市
重要伝統的建造物群保存地区 2016年選定 約5.0ヘクタール


 江戸時代を通じて彦根藩の中心地であった彦根城。かつての城下町から中山道へと至る「彦根道」と呼ばれる往来のうち、芹川北岸の道筋に沿って河原町と芹町が続いている。江戸時代には河原町、袋町(ふくろまち)、安清町(やすきよちょう)、善利新町(せりしんまち)と呼ばれていた城下町南東端の町人地にあたり、多種多様な業種の商家が並んでいたという。緩やかに蛇行する路地に沿って、現在も短冊状に区切られた町割が継承されており、江戸時代から昭和初期の町家が良好な状態で現存する。城下町時代から続く商業地としての風情を今に伝えていることから、「久佐の辻」と呼ばれる交差点から連続する約780メートルの範囲が重要伝統的建造物群保存地区の選定を受けた。




芹川の旧流路に形成された町のため、路地が蛇行している

 河原町と芹町の道筋は、彦根城を築城する際に付け替えられた善利川(芹川)の旧流路にあたる。彦根の一帯は沼などが多い湿潤地であった為、善利川を約2キロメートルに渡って西へと直流させ、外堀として利用すると共に排水の便を高めたのだ。城下町の他の通りが一直線状であるのに対し、この通りが蛇行しているのはかつての川の跡をなぞっているからである。河原町・芹町という町名の由来もまた川からだ。彦根城は慶長8年(1603年)に築城が開始され、元和8年(1622年)に完成した。城下町はその後の寛永期(1624〜1644年)にかけて整備されたが、河原町は元和4年(1618年)以前、南端の善利新町も寛永18年(1641年)には既に成立していたという。




河原町では洋風の意匠を取り入れた店舗も見られる

 元禄8年(1695年)の『大洞弁財天祠堂寄進帳』によると、河原町には34軒の煙草屋や16軒の油屋、15軒の米屋をはじめ、菓子・茶・塩・紙・木綿などを扱う商家、大工や畳・傘・桶などの職人、さらには医師といった計41種の生業で賑わっていた。また安政4年(1857年)の『川原町本家借家家並五人組帳』では煙草屋は3軒、油屋は2軒、米屋も6件に減少するものの、業種は59種とより多様化している。明治時代に入ってからも製糸業の隆盛により繭を扱う店が増えるなど、市内の主要商業地として発展していった。また河原町・芹町から続く彦根道は、中山道のみならずその東の多賀方面へと続いており、周辺の農山村からの物資の集散地としても機能していたと考えられる。




鋭角に交わる路地に沿って築かれた、台形型の敷地を持つ家

 各家の敷地は間口が狭く奥行きが長い短冊形の町割を基本とするが、表通りが緩やかに湾曲しているため台形型の家もある。表通りに面して建つ主屋は、瓦葺きの切妻屋根平入り厨子(つし)二階建てのものが多い。一階部分は庇を設けて半間ほど手前にせり出し、二階部分の両端には袖壁(袖卯建)を備えるのが特徴的だ。二階の壁は木部を見せない大壁とし、虫籠窓を開く家もある。江戸時代に遡る古い町家では、主屋の背後の屋根を低く葺き下ろすという特徴も見られる。敷地の奥行きは、河原町では14間ほどだが、芹町では8間と、旧城下町から離れるにつれ短くなっている。敷地の奥には江戸時代から明治時代にかけての土蔵が残る家も少なくない。




袖壁を備えた町家が連続する旧安清町の町並み

 主屋の平面は大まかに、長屋形式の町家、一列型町家、二列型町家の三種類に分類される。長屋形式の町家は二戸以上の町家の境壁を共有するもので、多くは借家であった。一戸あたりの間口は約2間から3間ほどで、「トオリニワ」と呼ばれる土間に沿って三室あるいは四室を一列に配している。一列型町家は間口が3間半から4間で、トオリニワに沿って三室または四室が並ぶ、最も一般的な町家だ。長屋形式とは異なり、隣家と境壁を共有せず独立して建っている。二列型町家の間口は5〜6間で、トオリニワに沿って二列三室の部屋が並んでおり、土間側の一列は幅を一間とするのが特徴である。この細長い部屋は、廊下あるいは控えの間として利用されたと考えられている。




河原町は各種時代の建築が入り乱れているが、今なお現役の商店も多い

 各町ごとの特徴としては、昭和に再開発された銀座町と隣接する河原町は建物の更新が進んでおり、各時代の建物が混在する町並みとなっている。江戸時代の厨子二階建ての町家のみならず、建ちの高い本二階建ての町家や、大正時代から昭和初期にかけて建てられた洋風建築など実に多様であり、現在も店舗として利用されている町家も多い。一方で安清町から芹町にかけては閑静な住宅街となっている。昔ながらの町家がまとまって残る箇所が比較的多く、落ち着いた印象の町並みを目にすることができる。連続する袖壁の中には白漆喰で塗り篭められているものもあり、また屋根の軒を支える出桁の上に天井を張った「せがい造り」としている町家もある。

2011年03月訪問




【アクセス】

近江鉄道本線「ひこね芹川駅」より徒歩約3分。
東海道本線「彦根駅」より徒歩約15分。

【拝観情報】

町並み散策自由(ただし、住民の迷惑にならないように)。

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