犬山城天守

―犬山城天守―
いぬやまじょうてんしゅ

愛知県犬山市
国宝 1952年指定


 尾張(愛知県)と美濃(岐阜県)を分け隔つ木曽川。その流れを臨む尾張側の断崖の上、まるで美濃を見張るように存在する平山城(平地にある丘などの上に建てられた城)が犬山城だ。その丘の頂に建つ犬山城天守は、建造当時から今に至るまで建ち続けている現存天守。全国に12基残る現存天守の中でも、特に価値が高いものとして国宝指定を受けた四城のうちの一つでもある。ただし犬山城は、明治時代に天守以外の建物が全て棄却されてしまっており、天守が唯一の現存建造物となっている。しかしながら、その犬山城天守は国宝天守四基の中で最も建造年が古く、典型的な前期望楼型天守の様相を今に伝える貴重な建造物として、類稀なる価値を有している。




正面から見た犬山城天守

 犬山城の起こりは、戦国時代へと突入する変遷期の文明元年(1469年)にまで遡る。尾張侵攻をもくろむ美濃の斎藤妙椿(さいとうみょうちん)の侵攻に備えるべく、尾張守護を務めていた斯波義敏(しばよしとし)は、家臣の織田広近(おだひろちか)に対して犬山の地に城を築くよう命じた。そこで広近は、現在の犬山市役所西にある愛宕神社付近に木ノ下城を造営し、木曽川を望む乾山には戦に備える為の砦を築いた。さらにその後の天文6年(1537年)、織田信長の叔父である織田信康(おだのぶやす)がそれまでの木ノ下城を廃し、乾山の砦を整備拡張して城郭とした。それこそが犬山城である。




右から手前にせり出して見えるのは付櫓だ

 織田信康が斎藤道三(さいとうどうさん)との戦いで死亡した後、犬山城の城主には信康の嫡男である織田信清(おだのぶきよ)が就いた。しかし信清は、犬山で蓄えた力を元に信長に反旗を翻す。その結果、犬山城は信長により攻め落とされ、信清は甲斐へと逃亡。その後は織田家の重臣である池田恒興(いけだつねおき)、信長の五男である織田勝長(おだかつなが)などが犬山城の城主を務め、最終的には元和3年(1617年)、尾張藩主となった徳川家康の九男である徳川義直(とくがわよしなお)の附家老、成瀬正成(なるせまさなり)が犬山に入り、以降犬山城は成瀬家九代の居城として明治を迎えるに至った。




立派な梁を持つ天守内部

 明治6年(1873年)、新政府により廃城令が公布されると、全国の城は次々に取り潰されて行った。犬山城もまたその波に飲み込まれ、天守を除いた大部分の建造物が棄却され、失われてしまった。残った天守もまた国の管理下に置かれたが、明治24年(1891年)に起きた濃尾地震によって天守の付櫓が破損すると、国はその修復を条件に、犬山城を成瀬家に無償譲渡した。明治28年(1895年)、犬山城天守は再び成瀬家の元に戻ったのだ。それより犬山城は全国で唯一、個人所有の城として近年まであり続けたが、2004年には犬山城白帝文庫が発足し、以降はこの財団により犬山城の運営が行われている。




城主の居間である上段の間
この裏には護衛が待機するための隠し部屋がある

 割石をそのままに積んだ、野面(のづら)積の石垣の上に立つ犬山城天守は、三層四階地下二階、南面に付櫓が付けられた複合式の望楼型天守である。望楼型天守とは、入母屋屋根の櫓の上に望楼を乗せた形の天守であり、犬山城天守のように望楼部分が小さいものは、前期望楼型天守と呼ばれている。なお、織田信康によって犬山城が築城された時には、既に天守の二階部分までが建てられていた。巨大な唐破風を含めた三階部分以上の望楼部分は、成瀬正成が城主となってから増設されたものである。これは昭和36年から昭和40年に渡って行われた解体修理の調査、および文献により判明した事だ。




犬山城天守から見る日本ラインの眺め

 犬山城天守は一層目が下見板張(したみいたばり)で、二層目は総塗込の大壁造(おおかべづくり)、そして三層目の望楼は真壁造(しんかべづくり)となっている。下見板張とは板を少しずつ重なるように張った壁の事だ。大壁造は漆喰で柱などの木材をも全て塗り込めた壁であり、耐火性に優れている。真壁造は大壁造と同じく漆喰塗りの壁だが、木材は塗り込めず表に見せる。望楼からは周辺を一望できるが、中でも木曽川の景観は殊の外素晴らしい。長野から岐阜、愛知、三重を経て伊勢湾に流れる木曽川。その犬山付近沿岸は、ヨーロッパのライン川に似た美しい峡谷景観を持つことから、日本ラインという愛称で呼ばれ親しまれている。

2007年01月訪問
2010年02月再訪問




【アクセス】

名古屋鉄道犬山線「犬山遊園駅」から徒歩約20分。
名古屋鉄道犬山線「犬山駅」から徒歩約40分。

【拝観情報】

拝観料金500円。
拝観時間9時〜17時(入場は16時30分まで)、12月29日〜12月31日休館。

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