浄瑠璃寺本堂(九体寺本堂)、浄瑠璃寺三重塔(九体寺三重塔)

―浄瑠璃寺本堂(九体寺本堂)―
じょうるりじほんどう(くたいじほんどう)

―浄瑠璃寺三重塔(九体寺三重塔)―
じょうるりじさんじゅうのとう(くたいじさんじゅうのとう)

京都府木津川市
国宝 1952年指定


 古都奈良の奥座敷、人里離れた当尾(とおの)の地にある浄瑠璃寺。そこには、平安時代後期の保元2年(1157年)、興福寺一条院の僧侶である義明上人によって作庭された浄土式庭園が、造営された当時のままに残されている。その庭園は中央に池を配し、西側に九体の阿弥陀如来坐像を安置する本堂の九体阿弥陀堂が、また東側には薬師如来坐像を安置する三重塔が置かれている。これは西の彼方に阿弥陀如来の住まう極楽浄土(西方浄土)が、東方には薬師如来の住まう浄瑠璃浄土(東方浄土)があるという浄土思想の教えに基いたものだ。その浄瑠璃寺庭園を構成する二つの最重要要素である本堂と三重塔が、それぞれ国宝に指定されている。




横の長さが特徴的な浄瑠璃寺本堂

 浄瑠璃寺の本堂は、保元2年(1157年)に庭園が造営された際に建てられたものである。浄瑠璃寺に伝わる浄瑠璃寺流記事(じょうるりじるきのこと、重要文化財)によると、嘉承2年(1107年)にも西堂を建て本尊をそこに安置したという記録が残されているが、永万2年(1166年)の興福寺の文書に「西小田原九体阿弥陀堂」と記されていることから、現在の本堂は保元2年の建造だった可能性が高いという。本堂の建物は一重の寄棟造り。建造当時は檜皮葺きだったが、寛文3年(1663年)の修理で瓦葺きに改められたという。中央には向拝が付けられているが、これも江戸時代の末期に加えられたものだ。そして何より、この本堂の最大の特徴と言うべきは、その長い横幅にあるだう。




向拝の付く本堂正面
この中に九体の阿弥陀如来坐像が鎮座している

 本堂は桁行11間、梁間4間と極めて横長に作られている特異な建築である。これは内部中央に一体と、その左右に4体ずつ、計9体の阿弥陀如来像を祀る為にできた形なのである。桁行11間のうち、両端の2間を除く内側9間には観音開きの板戸が付けられており、さらにその内部には障子戸がはめられている。これらの扉は内部に安置されている九体の阿弥陀如来像それぞれの前に開かれている事になり、まさにこの本堂は九体阿弥陀如来像を拝む為に作られた堂宇であることが分かる。それ故、この本堂は九体阿弥陀堂とも呼ばれており、また寺名も九体寺と称され、人々に親しまれてきた。




小ぶりにまとまった、浄瑠璃寺三重塔

 そもそも九体阿弥陀如来像とは、経典「観無量寿経(かんむりょうじゅきょう)」にて説かれている「九品往生(くほんおうじょう)」の思想(生き方によって九種類の浄土へ行くことになるという考え方)に基き作られたもので、平安時代には浄土思想の流行もあり、貴族たちにより京都付近にて盛んに作られていた。しかし度重なる戦火などで失われ、現存するものは浄瑠璃寺のものだけである。その希少性もあり、この九体阿弥陀如来像もまた本堂と同様に国宝指定を受けている。本堂内部には他にも四天王立像(国宝)、吉祥天立像(重要文化財)、子安地蔵菩薩立像などの諸仏が安置されており、その歴史を感じさせてくれる。




その高さは16mと、国宝指定の三重塔では最も低い

 本堂とは池を挟んだ対岸に位置する三重塔は、前述の浄瑠璃寺流記事によると治承2年(1178年)に京都一条大宮から移築したと記されている。しかし移築元の寺名など詳しい事は分かっていない。その築造は当然ながら移築以前ということになるが、平安後期の特徴が見られることから、建造年代はそれほど大きく遡らないであろうと考えられている。その三重塔は三間三重の檜皮葺き。初重周囲には高欄の無い縁が、二重、三重には縁高欄が巡らされており、中央間には板唐戸が、脇間には連子窓が設けられている。組物は三手先で、軒は二軒繁垂木(木材の間隔が狭い垂木)、軒桁を支える中備は、中央間のみ間斗束(けんとづか)が置かれている。




軒下の垂木と、組物
三段に組まれた三手先に、尾垂木(おだるき)が突き出ている

 また浄瑠璃寺三重塔は初重内部に心柱や四天王柱といった柱を設けず、心柱は二重目から立っている。このように初重内部に柱を設けない構造の塔は、現存するものとしては浄瑠璃寺のものが最古である。初重に柱が無いためスペースを広く使える事から、仏像を安置するのに適しており、浄瑠璃寺では創建当時よりの本尊である薬師如来坐像(重要文化財)が祀られている。また初重内部の壁には、釈迦八相や十六羅漢図といった鎌倉末期の壁画(重要文化財)が描かれており、塔内部を鮮やかに彩っている。2009年、この三重塔にアライグマが侵入し、壁画や阿弥陀如来坐像を爪で損傷させた。野生化したアライグマによる文化財の被害は、近年各地で確認されている。

2009年12月訪問




【アクセス】

JR奈良線「奈良駅」、「近鉄奈良駅」から「浄瑠璃寺」行きバス乗車約30分、終点「浄瑠璃寺前バス停」下車すぐ。

JR関西本線「加茂駅」から「加茂山の家」行きコミュニティバス乗車約20分、「浄瑠璃寺前バス停」下車すぐ。

【拝観情報】

拝観料300円、拝観時間9時〜17時(入場は16時30分まで)。

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