一乗寺三重塔

―一乗寺三重塔―
いちじょうじさんじゅうのとう

兵庫県加西市
国宝 1952年指定


 かつての播磨国東部、現在の兵庫県姫路市、加古川市、加西市が市境を接する山地には、法華山一乗寺という天台宗の古刹が存在する。その起源は飛鳥時代にまで遡り、インドから渡来してきた法道(ほうどう)仙人が、孝徳天皇(こうとくてんのう)の勅願を受けて、白雉元年(650年)に開いたと伝わっている。法道仙人は、インドから雲に乗って日本まで飛んで来たとされ、また空腹になると神通力で鉢を飛ばし、供物を得ていたとされる事から「空鉢仙人」と称される伝説的な人物だ。その境内には文化財も数多く、特に本堂下に屹立する三重塔は、平安時代の後期に建てられた播磨屈指の古塔として、力強くどっしりとした安定感のあるたたずまいを見せ、国宝に指定されている。




一乗寺三重塔と本堂

 播磨には、一乗寺を始め法道仙人を開基とする山岳寺院が極端に多く、法道仙人は実在の人物であったにせよ、そうでないにせよ、この地方において極めて強い影響力を有していた、あるいは信仰されていた事がうかがい知れる。一乗寺は、法道仙人が日本に来て一番最初に見つけた霊山、法華山に開かれたとされており、それ故法華山という山号が冠された。なお、一乗寺は創建当初、現在地よりも北に位置する笠松山に存在したと考えられている。事実、笠松山の麓は古法華(ふるぼっけ)と呼ばれており、そこには奈良時代に刻まれたとされる石仏が今もなお残されている。それは石造厨子に納められた如来三尊像で、現存最古級の石仏として重要文化財に指定されている。




本堂裏手に鎮座する弁天堂(左)、及び妙見堂(右)

 一乗寺は境内の入口から急な石段が続き、本尊の聖観音立像を祀る本堂へ至る。江戸時代前期、寛永5年(1628年)に再建されたこの本堂は、斜面に長い束柱を立てて築かれた懸造(かけづくり)の建物で、大悲閣(だいひかく)とも称されている。秘仏の本尊は飛鳥時代末から奈良時代初期、すなわち白鳳期のもので、本堂、本尊共に重要文化財の指定である。観音菩薩は補陀落山に住むとされており、それ故に観音霊場は険しい山に作られ、観音菩薩を祀る仏堂は山の斜面に建てられた懸造である事が多いのだ。なお、一乗寺本堂の裏手には一乗寺の鎮守社である鎌倉時代建造の護法堂、及び室町時代の建造である妙見堂と弁天堂が建ち、これらも重要文化財に指定されている。




一乗寺三重塔の初層部分

 一乗寺三重塔は、本堂の一段下、経蔵である法輪堂と向き合うように建てられている。その高さは約21.8メートルで、塔頂には唐草文様の透かし彫りが施された水煙が印象的な相輪が立てられている。この相輪は高さが約7メートルと、総高の3分の1を占める。昭和16年から18年に行われた解体修理の際、この相輪の根元に据えられている伏鉢(ふくはち)から承安元年(1171年)の銘が発見され、建てられた年代が判明した。このように、正確な建立年が判明した塔は極めて稀で、年代が特定できる塔として最古のものだ。時代が古い塔である為、逓減率(ていげんりつ)が高く、下層から上層に行くに従い塔身が小さくなるのが特徴的。三層の幅は、初層の実に半分にまで減少しているという。




蟇股は二つの部材に分かれており、中央に切れ目が見られる

 三間幅の塔の中央間には板戸が入り、その脇間には格子間に隙間の無い盲連子(めくられんじ)がはめられている。軒は二軒(ふたのき)の繁垂木(しげだるき)で、組物は三手先(みてさき)。中備(なかぞえ)には、三間ともに蟇股(かえるまた)が入れられている。この塔の蟇股は輪郭だけの本蟇股であるが、左右の脚がそれぞれ別の部材で作られている。このような蟇股は、蟇股が構造としてではなく意匠として用いられるようになったその最初期のものであり、塔に蟇股が用いられている最古の例である。初層の周囲には高欄の無い縁を巡らしているが、二層、三層は跳高欄を備えている。なお、前述の通り逓減率が高い塔である為、三層はサイズが小さく、斗栱間の蟇股が省略されている。




初層に比べ、三層部分のサイズは極めて小さい
また、三層目の屋根には僅かな照り起りが見られる

 また、この塔は瓦葺きでありながら、隅棟の先が二段になる稚児棟(ちごむね)を用いない。三層目の屋根はなだらかな膨らみと反りを有する、照り起り(てりむくり)が見られる。かつては丹塗りで彩られていたが、それは現在ほとんど剥落してしまった。内部は心柱が初層の天井に立つ構造で、初層は四天柱のみだ。逆に二層、三層は四天柱が省略されており、心柱だけとなっている。このように、初層天井上から心柱を立てるのは、中世の塔の特徴だ。また、垂木は三個の斗の幅に六本の垂木が置かれる六支掛(ろくしかけ)となっているが、これもまた中世に定型化された様式である。この三重塔は、古代の塔から中世の塔へと変わる、その過程を示すものとしても貴重なのである。

2010年05月訪問




【アクセス】

JR山陽本線「姫路駅」より神姫バス「法華山一乗寺経由社行き」で約35分「法華山一乗寺バス停」下車すぐ。
北条鉄道「法華口駅」から神姫バス「法華山一乗寺経由姫路駅行き」で約10分、「法華山一乗寺バス停」下車すぐ。

【拝観情報】

拝観料400円、拝観時間は8時〜17時。

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