春日大社本社本殿

―春日大社本社本殿―
かすがたいしゃほんしゃほんでん
国宝 1956年指定

奈良県奈良市


 奈良盆地の北部、平城京の東に位置する御蓋山(みかさやま)。春日山とも呼ばれるその山の麓には、奈良時代に創建された春日大社の境内が広がっている。春日大社は藤原氏の氏神を祀る神社であり、同じく藤原氏によって建立された興福寺と一体のものとして、奈良時代、平安時代を通じ、藤原氏の興隆と共に多大なる信仰を集め、繁栄した。長い参道を経てたどり着く春日大社の最深部には、数多くの社殿によって囲まれた一間社(いちげんしゃ)春日造(かすがづくり)の本殿が鎮座する。第一殿から第四殿まで、計四棟から成るそれらの春日大社本殿は、神社建築のうち流造に次いで日本全土に数広く分布する春日造を代表するものとして、四棟まとめて国宝に指定されている。




春日大社表参道

 春日大社の起源は、都が奈良の平城京に遷都した和銅3年(710年)にまで遡る。この年、藤原鎌足(ふじわらのかまたり)の次男である藤原不比等(ふじわら のふひと)は、平城京の安寧を願い、藤原氏の氏神である鹿島神宮の武甕槌命(たけみかづちのみこと)を太古からの霊場である御蓋山に勧請して春日神とした。また神護景雲2年(768年)には、称徳天皇(しょうとくてんのう)の勅命の下、左大臣の藤原永手(ふじわらのながて)が、御蓋山の中腹に位置する位置に四棟の社殿を造営し、香取神宮から経津主命(ふつぬしのみこと)を、枚岡神社から天児屋根命(あめのこやねのみこと)、および天美津玉照比売命(あめのみつたまてるひめのみこと)を勧請して、武甕槌命と併せて祀ったのだ。




三間一戸の楼門建築である南門と、その両脇より伸びる回廊
この内部が春日大社の中心部である

 春日大社の境内は、御蓋山(春日山)の大部分を網羅する、極めて広大な領域に及ぶ。境内の入口には一之鳥居(江戸時代再建、重要文化財)が構えられ、1.2キロメートルにも及ぶ表参道はそこから伸びる。かつては狼煙台が置かれた飛火野(とびひの)を横切り、参道を上り詰めた所に姿を現すのは室町時代建造の南門、および桃山時代の回廊だ。その回廊に取り囲まれた内部が春日大社の中心部分ということになるが、そこに存在する建造物は全て室町時代もしくは江戸時代前期に建てられたものであり、いずれも重要文化財に指定されている。また、これら社殿の背後には、古代より禁足地として保護されてきた春日山原始林が鬱蒼と茂り、一帯を静かに包み込んでいる。




一間一戸の楼門建築である中門
この門のさらに奥に、春日大社本殿は鎮座している

 春日大社の本殿は回廊内のさらに奥、中門と御廊(おろう)によって囲まれた内側に四棟並んで鎮座している。正面向かって右から武甕槌命を祀る第一殿、経津主命を祀る第二殿、天児屋根命を祀る第三殿、そして天美津玉照比売命を祀る第四殿となっている。国宝に指定されているのはこれら四棟と、それぞれの社殿を連結する脇塀。また内鳥居と、本殿の背後を取り囲む透塀(すきべい)および瑞垣(みずがき)が、本殿の附けたりとして国宝指定を受けている。四棟の本殿はいずれも一間社春日造、屋根は檜皮葺である。春日造とは、切妻屋根の妻入で屋根がやや反り、前方に向拝(こうはい)と呼ばれる庇が付く形式の神社建築で、正面からではまるで入母屋造に見えるのが特徴的だ。




斜め後ろより見た春日大社本殿(第四殿)
本殿を正面から撮影することは禁じられている

 春日大社本殿の建造年は文久3年(1863年)と、奈良時代からの長い歴史を持つ春日大社の本殿にしては新しいが、これは江戸時代が終わるまで、20年ごとに社殿を建て替える神事である式年遷宮が行われていた為である。式年遷宮は社殿をリフレッシュすることで穢れを祓い、常に若々しくあり続け、生命力に満ちた状態を保とうという、神道の常若(とこわか)の精神を表したものだ。また社殿を定期的に建て替える事で、建築技法と意匠が改変されること無く次の世代へ継承されるという作用もある。その為、建造年は江戸末期と新しくとも、その社殿の姿は古代から代わらぬ様相を呈している。特に階段に描かれた文様や、屋根に乗る繊細なカーブの千木(ちぎ)に、古の面影を残しているという。




横一列に並ぶ本殿四棟
手前に設けられているのは透塀だ

 式年遷宮はかつては多くの神社で行われていたが、明治時代に入ると古建造物の文化的価値という新たな概念が生まれ、そのような建造物は文化財として保存しようという価値の下、社殿を全て丸ごと建替えるというような式年遷宮はほとんど行われなくなった。現在もなお完全な形で式年遷宮を実施しているのは、伊勢神宮だけである。現在の春日大社においては、痛んだ部分の修理や、朱の塗り替え、屋根の葺き替えなどをもって、式年遷宮としている。次回は2015年に行われる事になっており、それに先立ち一之鳥居が2008年に修復が行われた。以降も2015年の正遷座祭に向け、順次建造物の屋根の葺き替えなどが行われていく予定である。

2006年12月訪問
2010年03月再訪問




【アクセス】

近鉄奈良線「近鉄奈良駅」から徒歩約30分。

JR奈良線「奈良駅」から徒歩約40分。

JR奈良線「奈良駅」もしくは近鉄奈良線「近鉄奈良駅」より奈良交通バス市内循環外回り乗車「春日大社表参道バス停」下車、徒歩約10分。

【拝観情報】

境内無料、中門前まで立ち入る特別参拝は拝観料500円。
拝観時間は4月〜10月が6時30分〜17時30分 、11月〜3月が7時〜16時30分。

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