―石山寺本堂―
いしやまでらほんどう
国宝 1952年指定 ―石山寺多宝塔―
いしやまでらたほうとう
国宝 1951年指定 滋賀県大津市 滋賀県南西部、琵琶湖から流れ出る唯一の河川である瀬田川のたもと。珪灰石が露出した、珍しい地質を持つ伽藍山に建つ事からその名が付いた石山寺は、奈良時代に起源を持つ東寺真言宗の仏教寺院である。古くより一大観音霊場として栄え、数多くの人々の信仰を集めて来た石山寺は、歴史を通じて戦火を被るような被害を受けなかった為、その境内には今もなお、数多くの古建築や寺宝が残されている。そのうち建造物に限れば、平安時代に建てられ、後に豊臣秀吉の側室であり豊臣秀頼の母である淀殿(よどどの)の寄進を受けて増築がなされた本堂、および鎌倉時代前期に立てられた現存最古の多宝塔の二棟が、国宝に指定されている。 寺伝によると、石山寺は天平19年(747年)、聖武天皇の発願により、東大寺の開山である良弁(ろうべん)僧正が開いたとされる。天平宝字5年(761年)には伽藍の整備が行われ、本堂を始めとする各種の堂宇が建てられた。平安時代には醍醐寺の影響を受けて密教化が進み、また貴族の女性の間で石山詣が流行した。清少納言(せいしょうなごん)による「枕草子」、藤原道綱母(ふじわらのみちつなのはは)による「蜻蛉日記」、菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)による「更級日記」、和泉式部(いずみしきぶ)による「和泉式部日記」など、数多くの平安文学に石山寺の名は登場している。また、石山寺越しに見る秋の月は、近江八景の一つ「石山秋月」として名高い。 現在見られる石山寺の本堂は、斜面の上に長い束柱を立てた懸造(かけづくり)となっているが、しかしその懸造の部分にあたる礼堂(らいどう)は、後世に増築されたものであり、元々は仏像を安置している正堂(しょうどう)部分のみの建築であった。平安後期の承暦2年(1078年)、当時の本堂が焼失したのを受け、永長元年(1096年)に本堂が再建され(この時の本堂が現在の正堂部分である)、その後、安土桃山時代から江戸時代に移り変わる慶長7年(1602年)に、淀殿の寄進によって礼堂部分の増築がなされ、今に見られる姿になったのだ。その規模は、正堂が桁行七間に梁間四間、礼堂は桁行九間に梁間四間。本堂と礼堂を繋ぐ相の間は桁行一間に梁間七間となっている。 本堂の屋根は、正堂、礼堂共に檜皮葺きの寄棟造。それらの棟と直交して相の間の棟が通り、礼堂の棟の上を越えて本堂正面に破風を作っている。屋根がこのように複雑な構造になっているのは、正堂より礼堂が低く作られている為である。礼堂の周囲には縁が巡らされているが、この縁周りのみ角柱が用いられており、礼堂内部や正堂には三斗の組物を持つ丸柱が用いられている。正堂の中央に据えられている巨大な厨子の中には、秘仏の本尊である平安時代作の如意輪観音半跏像(重要文化財)が祀られている。また、相の間の右端には、紫式部の間という小部屋が設けられている。これは紫式部が石山寺に篭り、源氏物語の発想を得たという逸話に基いたものだ。 伽藍の中央に見られる荒々しい珪灰石の後方高台には、鎌倉前期に建てられた多宝塔がそびえている。多宝塔とは下層が方形、上層が円形の二重塔で、大日如来を祀る日本独自の塔だ。元は高野山の金剛峰寺に建立され、その後に各地の密教寺院に広まったとされる。石山寺の多宝塔は、源頼朝の寄進を受けて建立されたものと伝わっており、須弥壇の墨書より建久5年(1194年)に建立された事が分かっている。これは現存する多宝塔の中で最古である。総高は約17メートル。下層には幅の広い裳階が付き、組物は出組である。漆喰塗りの亀腹から突き出た上層は、軒が非常に深く四手先の組物も見事。バランスが良く、非常に美しいシルエットを作り出している。 多宝塔の内部に置かれた須弥壇には、運慶(うんけい)と共に鎌倉時代を代表する仏師である快慶(かいけい)によって彫られた、大日如来坐像(重要文化財)が安置されている。檜の寄木造で、多宝塔の建立と同じ時期に作られたものと考えられている。四天柱や天井、長押などには宝相華などの壁画が描かれているが、現在は剥落が非常に激しい。しかしながら、平安時代から鎌倉時代に至る過渡期の仏画として価値が高く、重要文化財に指定されている。多宝塔と同じく鎌倉時代の遺構として、末広がりの漆喰塗り袴腰を持つ鐘楼がある。他にも、室町中期に建てられた御影堂、本堂が増築されたのと同時期の東大門、蓮如堂および三十八所権現社本殿、経蔵(いずれも重要文化財)など、数多くの古建築がその境内にひしめいている。 2010年05月訪問
【アクセス】
京阪石山坂本線「石山寺駅」より徒歩約10分。 【拝観情報】
拝観料500円、拝観時間8時〜16時30分(入場は16:00まで)。 ・金剛三昧院多宝塔(国宝建造物) ・浄土寺多宝塔(国宝建造物) Tweet |