浄土寺本堂、浄土寺多宝塔

―浄土寺本堂―
じょうどじほんどう
国宝 1953年指定

―浄土寺多宝塔―
じょうどじたほうとう
国宝 1953年指定

広島県尾道市


 瀬戸内海のほぼ中央、しまなみ海道の入口に位置する尾道は、平安時代からの歴史を持つ港の町である。正面に向島がそびえ、狭隘な海峡である尾道水道に面した尾道港は、瀬戸内航路における重要商港として繁栄を極め、無数の豪商を生み出した。町の背後に連なる山々に沿って建ち並ぶ寺社群は、それら尾道商人たちの寄進を受けて建立されたものだ。尾道の町の東端、尾道水道の入口を見下ろす位置に建つ転法輪山(てんぽうりんざん)浄土寺は、それらの尾道の寺社の中でも、特に中世からの寺院景観が良好に残されている寺である。その浄土寺境内に建つ歴史的建造物のうち、鎌倉時代後期に建てられた本堂と多宝塔の二棟が国宝に指定されている。




バランスの取れたフォルムが美しい浄土寺多宝塔

 寺伝によると、浄土寺は飛鳥時代の推古天皇24年(616年)、聖徳太子によって開かれたとされる。ただし、浄土寺の名が史料に現れるのは鎌倉時代中期以降の事であり、その創建は定かではない。とは言うものの、秘仏本尊の木造十一面観音立像(重要文化財)は平安時代初期に刻まれた檜の一木造であり、浄土寺の歴史の深さを伺う事ができる。鎌倉時代の末期には荒廃していたが、嘉元4年(1306年)に奈良西大寺の高僧、叡尊(えいそん)の弟子であった定証が再興し、伽藍を整えたという。その後間も無く、正中2年(1325年)の大火によってそれらの堂宇はあえなく焼失してしまったものの、当時の尾道商人の圧倒的な財力をもって、諸堂は瞬く間に再建された。




和様に加え、大仏様と禅宗様の特徴も見られる浄土寺本堂
この時代における折衷様仏堂の代表例とされる

 現在に残る浄土寺本堂は、大火後の嘉暦2年(1327年)に再建されたものである。その規模は桁行五間に梁間五間、屋根は一重の入母屋造で本瓦葺。正面に一間の向拝が付属し、周囲には擬宝珠付きの欄干を備えた縁が巡らされている。日本古来の建築様式である和様を基調としながらも、鎌倉時代に宋から日本に伝来した禅宗様や大仏様を織り交ぜた、折衷様の仏堂である。軒下の組物は出組で、中備は和様の間斗束の上に大仏様の双斗が乗る。和様の長押ではなく貫で柱を固め、突き出た頭貫は大仏様の繰型が付いた木鼻とする。また向拝の手挟は、施されている繰型の形式や、上部が遊離している点など極めて古式の様相を呈しており、現存最古のものと考えられている。




浄土寺本堂の内部外陣
天井は張らず、虹梁や垂木を見せている

 浄土寺本堂の内部は、前より二間を礼拝の為の外陣、後ろより三間のうち両端間を脇陣、その間を仏像安置の為の内陣とする。中世密教仏堂のセオリー通り、内陣と外陣の間を格子戸と菱欄間によって仕切っており、仏の空間と俗の空間を厳密に区別している。外陣はほぼ全ての柱間に大仏様の桟唐戸を開いて開放的なのに対し、内陣は極めて閉鎖的である。また、外陣は天井を張らずに構架を見せているのに対し、内陣の天井は折上小組格天井としている。内陣には本尊を祀る厨子を安置しているが、この厨子は本堂建立と同時期のものであり、本堂の附けたりとして国宝に指定されている。また棟札と境内図もそれぞれ二枚ずつ現存しており、これらもまた附けたり国宝である。




鎌倉時代後期の特徴を見せる多宝塔の蟇股
その上には大仏様の双斗が乗る

 浄土寺多宝塔は、本堂より僅かに遅れた元徳元年(1329年)の再建である。現存する中世多宝塔の中で最大級の規模を持ち、その形状は下層の幅が広く、軒は低く、上に乗る漆喰の亀腹も巨大で安定感がある。下層に見られる蟇股(かえるまた)には、牡丹や唐草に蝶の透かし彫りが施されているが、このような意匠の蟇股は鎌倉時代の後期における典型だ。蟇股の上には、大仏様の双斗が乗っており、また木鼻は植物の文様をかたどった禅宗様のものである。上層の組物は四手先だが、そこから伸びる尾垂木には繰型が施されている。一般的に、尾垂木に絵様を付けるようになるのは近世以降の事であり、これはその先駆、最古例として貴重なものである。




複雑な四手先の組物を持つ多宝塔の上層部

 多宝塔の内部には彩色が施され、中央には大日如来とその脇侍が鎮座している。仏前を広く取る為に、四天柱のうち後ろ二本を後退させているが、これは多宝塔では他に例がなく、唯一のものだ。なお、昭和11年に多宝塔の解体修理が行われ、塔頂の相輪から経巻などが発見された。それらは相輪内納入経巻類として、多宝塔の附けたり国宝である。また、浄土寺には他にも、貞和元年(1345年)に建てられた阿弥陀堂や、中世の石塔、室町時代前期の山門、江戸時代建造の方丈などが現存し、それらは全て重要文化財に指定されている。文化財の宝庫である浄土寺は、中世からの寺院景観を良好に残す寺院として、その境内地全域が本堂と共に国宝に指定されている希有な寺院だ。

2010年05月訪問




【アクセス】

JR山陽本線「尾道駅」より徒歩約50分。
JR山陽本線「尾道駅」より市営バスで約10分、「浄土寺下バス停」下車すぐ。

【拝観情報】

境内自由。
方丈庭園の拝観は拝観料500円、拝観時間9時〜17時。

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