専修寺御影堂、専修寺如来堂

―専修寺御影堂―
せんじゅじみえいどう
国宝 2018年指定

―専修寺如来堂―
せんじゅじにょらいどう
国宝 2018年指定

三重県津市


 津市の北側に位置する一身田(いっしんでん)に真宗高田派の本山寺院である専修寺が存在する。全部で10派ある浄土真宗の教団のうち、高田派は本願寺派、大谷派に次ぐ三番目の規模を有しており、専修寺の境内もまた東西約370メートル、南北約250メートルと広大なものだ。今に見られる堂宇は江戸時代の前期から中期にかけて整備されたものであり、境内の中核を成す御影堂と如来堂は現存する近世寺院として屈指の規模を誇る。また江戸時代中期以前の両堂を備えた真宗寺院はここが唯一という点でも貴重な存在だ。両堂は建築様式こそ異なるものの、いずれも近世に発達した大規模木造建築の技術が遺憾なく発揮されており、寺院建築の到達点を示すものとして国宝に指定された。




近世建築において屈指の規模を誇る専修寺の御影堂

 専修寺は嘉禄元年(1225年)に栃木県真岡市の高田で創建された。15世紀後半に伊勢国の拠点として一身田の専修寺が築かれ、江戸時代にはこちらが本山として定着した。正保2年(1645年)には火災で堂宇が失われ、その後の万治元年(1658年)に津藩主藤堂家の寄進を受けて寺域が西側に拡張され、現在の伽藍が整備された。境内の中心には御影堂と如来堂が南面して築かれ、両堂を通天橋が繋いでいる。御影堂の正面には山門が、如来堂の正面には唐門が構えられ、如来堂の西側には御廟が、御影堂の東手前には鐘楼と茶所、東奥には殿舎群が位置しており、境内の東端には太鼓門が構えられている。これら計11棟の建造物が重要文化財に指定されており、近世の寺院景観を良好に残している。




彩色が施された手挟を持つ御影堂向拝の架構
笈形付の大瓶束を立て、その上に海老虹梁を架けている

 浄土真宗の開祖である親鸞および歴代上人を祀る御影堂は、寺域が拡張された翌年の万治二年(1659年)に建立が始まり、寛文6年(1666年)に落成した。その後、親鸞遠忌などの節目に度々の整備が行われている。日本古来の建築様式である和様を基調とし、その規模は桁行九間、梁間九間。屋根は入母屋造で本瓦葺である。背面以外の三方に擬宝珠高欄付きの切目縁を巡らしており、正面には三間の向拝、東側には階段を設けている。柱間装置は隅部のみ連子窓で、それ以外は桟唐戸だ。組物は二手先で、二手目の肘木鼻には龍の彫刻が施されている。軒は二軒繁垂木、妻飾は三重虹梁とする。破風は鰭付三花懸魚で飾り、全体に銅板を巻いて黒塗りとし、錺金具は緑青塗りとしている。




御影堂の鞘の間から大間、中陣、内陣を望む

 内部は前方と側面の外側一間分を鞘の間とし、その内側のうち手前二間を大間、続く二間を中陣とする。後方四間のうち中央三間を内陣とし、両外側各二間を余間としている。内陣の後ろ寄りには大陸由来の建築様式である禅宗様の須弥壇を設け、元禄15年(1702年)に築かた宮殿(くうでん)を安置し、親鸞木像を祀っている。主体部は円柱を内法貫と頭貫で固め、組物は大間と中陣は二手先で、内陣・余間は出組とし、須弥壇の来迎柱のみ二手先である。鞘の間と大間の境、および中陣と内陣・余間の境には彫刻欄間をはめ、中陣の側面と内陣・余間は柱と内法長押を金箔で押し、極彩色の頭貫、組物、蟇股などと共に内部空間を絢爛豪華に飾り立てている。




禅宗様の一重裳階付形式で築かれている如来堂

 教義上の本堂にあたる如来堂は享保6年(1721年)に建立が始まったものの、その後に工事が滞り、落成したのは延享元年3年(1744年)のことだ。御影堂と同じく親鸞の遠忌などに整備が行われ、今に見られる姿となった。和様の御影堂とは対照的に禅宗様で築かれており、その規模は桁行五間、梁間五間。禅宗様の仏堂としては現存最大級の規模である。屋根は入母屋造の本瓦葺きで、周囲には裳階(もこし)と呼ばれる庇が巡らされている。背面以外の三方に擬宝珠高欄付きの切目縁を巡らしており、正面には三間の向拝を設ける。柱間装置は隅部のみ花頭窓とし、それ以外は両折桟唐戸を立てている。組物は四手先の詰組であり、三段の尾垂木には獏、龍、像の彫刻が施されている。




尾垂木のひとつひとつに彫刻が施されており目を引く

 内部は裳階にあたる前方と側面の外側一間分を鞘の間とし、その内側のうち手前二間を大間、続く幅の広い一間を中陣とする。奥側の一間と後方の裳階の一間を合わせた二間のうち中央三間を内陣とし、両外側各一間を余間としている。内陣の後方には禅宗様の須弥壇を設け、宮殿を安置して本尊の阿弥陀如来像を祀っている。大間と中陣は大虹梁を架けて内部柱を省き、横に長い内部空間を作り出している。これは高田派の仏堂に多く見られる特徴のひとつである。禅宗様の仏殿としては珍しく天井を張っており、大間と中陣脇間は格天井、中陣中央間は折上格天井、内陣は折上小組格天井である。また中陣中央間では長押や虹梁を高めており、中心部に上昇性を持たせた独創的な内部構造となっている。

2019年03月訪問




【アクセス】

JR紀勢本線「一身田駅」から徒歩約3分。

【拝観情報】

拝観自由。
開門時間は5時30分から17時30分、開堂時間は6時から15時30分。

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【参考文献】

・月刊文化財 平成30年1月(652号)