カジュラーホの建造物群

カジュラーホの建造物群

概要
保有国 インド
記載年 1986年
該当登録基準 (1)(3)−文化遺産
構成資産 西の寺院群(カンダーリヤ・マハーデーヴァ寺院,
ラクシュマナ寺院,ジャガダンビ寺院ほか)
東の寺院群(パールシュヴァナート寺院ほか)
南の寺院群(ドゥラーデーオ寺院ほか)
 今でこそ観光に依存する小さな村、カジュラーホ。そこはかつて、王朝の都であった――

 インド北部中央の平原、いくつもの寺院が青い空にそびえるカジュラーホ村。 10世紀から14世紀の間チャンデッラ王朝の都として栄えたこの村は、 王朝最盛期の10世紀後期から12世紀前期までの約150年間にかけて作られた数多くのヒンドゥー寺院が立ち並んでいる。 これらの寺院は建設当時には85あったというが、現存しているものはそのうち25。 インドの寺院建築院には、北インドでよく見られる北方型と、南インドでよく見られる南方型の2タイプがあるが、 カジュラーホの寺院群はそのうち北方型ヒンドゥー寺院の傑作であると言える。

 カジュラーホの寺院群は、シカラと呼ばれる最も高い塔を中心に、 シカラと同型の小さな塔がいくつも連なっている外観を持つが、 これはヒンドゥー教にとって聖なる山脈であるヒマラヤの山々を表したものであるという。 そのシカラの高さは、カジュラーホで最も巨大なカンダーリヤ・マハーデーヴァ寺院のものともなると31mにもなる。 寺院内部は、玄関から奥に向かってマンダパ(拝堂)、マハー・マンダパ(大拝堂)、 ガルバグリハ(聖室)の順に部屋が作られており、聖室の周囲には右周りに回って礼拝を行うための繞道(にょうどう) が設けられ、さらにその繞道の周囲には採光のためのバルコニーが備えられている。 なお、礼拝対象を祀るもっとも神聖な場所である聖室は、シカラの真下となっている。

 カジュラーホの寺院群をとりわけ有名にしているものは、その砂岩造りの寺院に彫られた精巧な彫刻である。 そのくどいまでにびっしり彫られた彫刻のモチーフは、神や天女、象などの動物、植物紋様など様々であるが、 中でも男女ペアの像やミトゥナ像(男女交合像)が目立つ。 ミトゥナ像とはその名の通り男女の交合、要するにセックスを表した像である。 宗教上、性について比較的厳しく管理されている現在のインドにおいて、 この様々な体位で交わる男女の姿(中には牛と交わっているものまである)はあまりにショッキングではあるが、 よく見るとそれらにいやらしさはあまり感じられず、むしろ神々しくさえ見える。 ミトゥナ像が作られた理由には諸説あるが、「カーマスートラ」の教えを説いたものであるという説が一般的である。 カーマスートラとは、4世紀頃に編成されたヒンドゥー教における性の経典で、 古代インドの性思想や性倫理を表現したものである。

 カジュラーホの寺院群はそのほとんどがヒンドゥー教の寺院であるが、 東の寺院群には一部ジャイナ教の寺院も含まれている。 ジャイナ教は仏教と同時期に発生した不殺生、無所有を特徴とする宗教であり、 現在のインドにも少数派ながら敬虔な信者が存在している。 宗教的にはヒンドゥー教とはまったく違うジャイナ教だが、 これらジャイナ寺院の様式は周囲のヒンドゥー寺院と大差のないものである。 それは、ヒンドゥー寺院もジャイナ寺院も、それらを作成した職人は同じであったためだという。

旅行情報
所在地 マディア・プラデーシュ州 カジュラーホ
アクセス ジャンスィよりバスで5時間,サトナよりバスで4時間
必要見学時間 1日
 カジュラーホ村は、観光に依存するひなびた田舎の小村である。 周囲の観光都市からのアクセスは良くなく、アーグラーは鉄道でジャンスィへ、 バラナシからは鉄道でサトナへ行った後、それらの街からバスに乗ってカジュラーホまで行くことになる。 どちらのルートを使うにしても、丸一日がかりの移動となるだろう。 しかも、バスの本数は少なくローカルバスは地元の人で超満員になる上、長時間の移動となるので極めてハード。 カジュラーホにはその村の規模に似合わず飛行場があり、各地からフライトが出ているため、 時間が無い人や体力が無い人は飛行機で飛ぶのが良いだろう。 しかし飛行機は、オンシーズンになるとチケットはグループ客に買い占められてしまうので、 その時期は早くからの予約が必要となる。

 何度も言うが、カジュラーホは観光に依存する村である。 ゆえに、村は観光客相手のゲストハウスや土産物屋が建ち並び、 それらの間では非常に激烈な観光客争奪が繰り広げられている。 バスでカジュラーホに行く途中、青年が親しげに話し掛けてくる場合があるが、 これらは間違いなくカジュラーホのゲストハウスの客引きである。 また、日本人を使って客引きを行っている宿もある。 「あの宿の主人は犯罪者だ」など、商売相手の誹謗中傷を行うことは日常茶飯事。 宿の情報ノートも、宿に不利益な情報はすべて黒塗りで塗りつぶされる。 面倒に巻き込まれないためにも、またいいように利用されないためにも、 カジュラーホでは宿の人間や客引きの言うことをすべて間に受けるのはやめた方が良い。

 カジュラーホの寺院群は、西の寺院群、東の寺院群、南の寺院群の3エリアに分かれている。 西の寺院群はその大部分が遺跡公園として整備されており、入るには入場料が必要であるが、 この西の寺院群は最も状態が良く、精巧な彫刻を持つ寺院群が密集しており、 カジュラーホのハイライトであるといえる。 なお、西の寺院群を見学するのは断然早朝が良い。 ここの寺院の入口はすべて東を向いており、朝ならば寺院内部にまで光が入るのだ。 また、昼間はツアーなどの観光客が多く落ち着いて見学できない上、 日差しが強くなるのでそのような意味でも朝の方が良いだろう。 ここは日の出と共に開門するため、できれば早起きして日の出と同時に入りたい。 オレンジ色の朝日に照らされた寺院群はますます神秘的なものとなる。

 東の寺院群は村の中心である西の寺院群から東へ1kmほど行ったところにある。 西の寺院群とは違って寺院はさほどまとまっていないため、寺院と寺院の間は結構距離がある。 歩いてでも行けるが、強い日差しの中歩くのを避けたければレンタサイクルを借りて行くと良い。 なお、東の寺院群はヒンドゥ教の階級制度であるカーストが色濃く残る集落の付近である。 東の寺院群を見学していると子どもたちがやってきて集落や学校に案内されることもある。 結局のところ、バクシーシ(寄付)を狙ってのことであるので、 不安を感じたり金を払うのが面倒ならば断った方が良いだろう。

 南の寺院群は、東の寺院群よりさらに南へ下ったところにある。 南の寺院群まで行くには、レンタサイクルは必須。 寺院"群"とは言っても群というほどの数はなく、寺院と寺院の距離も非常に開いている。 このあたりは、寺院を楽しむというよりもそこにたどり着くまでの風景を楽しむ、という感覚で行くと良い。 道路は未舗装でガタガタだが、道の両脇に広がる畑には青々とした麦や様々な色の花々を見ることができる。 なお、東の寺院群および南の寺院群は特に入場料のようなものは無い。

(2005年2月 訪問)

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