北京と瀋陽の明・清朝の皇宮群

北京と瀋陽の明・清朝の皇宮群

概要
保有国 中華人民共和国
記載年 1987年/2004年
該当登録基準 (1)(2)(3)(4)−文化遺産
構成資産 北京の故宮博物院、瀋陽の瀋陽故宮
 「北京と瀋陽の明・清朝の皇宮群」は、明および清の時代に渡って使用されていた、皇帝の居城および離宮である。まず初め、1987年に北京の故宮博物院が世界遺産に登録され、その後の2004年には瀋陽の瀋陽故宮がそれに追加登録され、現在の資産構成となった。

■北京の故宮博物院

 北京の故宮博物院は、明・清時代には紫禁城と呼ばれる皇帝の宮殿であった。もとは元の時代に作られた宮殿を、明の第三代皇帝である永楽帝が改築、首都を南京から北京に遷都させた1421年に居城としたものである。それから清が滅びる1912年まで約500年の間、紫禁城は皇帝の宮殿として中国の歴史の中心にあり続けた。なお、明の時代に建てられた建物は、1644年に明が滅びる際に起きた李自成の乱により焼失している。現在見られる建造物群は、明の時代の基礎の上に清の時代に再建されたものである。

 紫禁城は東西を753メートル、南北を961メートルとする方形の敷地にあり、その面積はおおよそ72万5千平方メートル。これは宮殿としては世界最大の面積であるという。周囲は護城河という幅52メートルの濠が設けられ、その内側を高さ12メートルもの塀が取り囲んでいる。城門は6つあるが、中でも有名なのは紫禁城の正門であった天安門だろう。その北には端門があり、さらにその北には午門がある。南以外では北に玄武門、東に東華門、そして西に西華門が設けられている。

 内部は南半分の外朝と北半分の内廷の二つのエリアに分かれており、それぞれ用途が異なっている。外朝は公式行事や儀式が執り行われていたエリアであり、太和殿や中和殿、保和殿といった外朝三殿がその中心である。中でも太和殿は皇帝の即位などの儀式が行われていた建物であり、極めて重要であるとされる。内廷は皇帝が日常政務を処理したり、妃たちと生活していたエリアである。皇帝、皇后の住まいであった乾清宮を中心に、皇后の冊立の儀式が行われた交泰殿や妃たちの住まいである東六宮や西六宮、御花園という庭園などが設けられている。

 これら紫禁城の敷地内にある建物の数は、すべて合わせると700以上にもなるという。屋根は皇帝のみに許された色である黄色の瑠璃瓦で統一されており、荘厳華麗な様相を見せる。また、主要な建物は大理石でできた基壇の上に建てられているため、基壇下から基壇上へは階段が通じているのだが、そのうち中央に位置する階段には精密な龍のレリーフが施されている。中国では皇帝は龍の化身と考えられており、そのレリーフのある中央階段は皇帝専用の階段であった。

■瀋陽の瀋陽故宮

 瀋陽の瀋陽故宮は、後金の創設者であり清の初代皇帝とされるヌルハチが、瀋陽に都を移した際に建てた宮殿である。瀋陽故宮にはヌルハチと二代皇帝ホンタイジが住まい、また清の首都が北京に遷都した後には清王朝の離宮として使用されていた。その敷地面積は約6万平方メートルと北京の故宮の12分の1程度の広さであるが、保存状態は故旧と同様に良く、敷地内には70以上の建物が並んでいる。瀋陽故宮にある建造物は、満州民族や漢民族、蒙古民族の建築が融合した独自性の高い様式なのが特徴だ。

 瀋陽故宮は主に東院、中院、西院の三つのエリアに分けることができる。東院は瀋陽故宮の中で最も古い時代に作られたエリアであり、その建造物は主にヌルハチの時代に建てられたものである。東院の正殿である大政殿はモンゴルのゲルを模した八角形の形状をしており、他に類を見ない特殊な建築である。大政殿の前の広場には、大臣の執務室である十王亭が左右に五棟ずつ並んでいる。

 中院はホンタイジの時代に作られたエリアであり、崇政殿や清寧宮、鳳凰楼などの建造物が建ち並んでいる。中でも中院の正殿である崇政殿は、ホンタイジが執務を行っていた建物である。また、崇政殿の後ろにそびえる三階建ての鳳凰楼は瀋陽故宮で最も高い建物であり、市内が一望できたという。西院は清の時代に離宮として拡張されたエリアであり、そこにある文溯閣には、清の六代皇帝、乾隆帝の勅命によってまとめられた、当時の重要書物を網羅する文献集「四庫全書」が収納されている。

旅行情報
所在地 ■北京の故宮博物院
北京市

■瀋陽の瀋陽故宮
遼寧省瀋陽
アクセス ■北京の故宮博物院
北京市北京駅より地下鉄で10分
必要見学時間 ■北京の故宮博物院
2日〜3日
■北京の故宮博物院

 かつて明・清の皇帝が住まった紫禁城は、今では故宮博物院という博物館として一般にも開放されている。しかしそこはさすが世界最大規模の宮殿である紫禁城。敷地内を歩き回るだけでも相当に時間がかかり、すべての展示物を見るとしたら丸一日あっても足りないくらいの規模がある。できるだけ時間的余裕を持って訪れないと、すべてを早足で見るはめになるだろう。できれば数日欲しいが、一日しか取れない場合は朝一番、開門と同時に入場することをお薦めする。それでも故宮を後にする頃には、もう日は傾いていることだろう。

 故宮はすべての場所が見学可能という訳ではないが、それでも主だった建造物は見ることができる。故宮の敷地外の天安門や端門も上ることができるが、故宮のチケットでは入れず別料金が必要だ。また、敷地内であっても珍宝館と鍾表館は別料金が必要であるが、珍宝館は見るべきものも多く、別料金を払っても入る価値はある。また故宮には中国三大九龍壁の一つがあることでも知られている。中国では九は最も偉大な数字であり、龍は皇帝を表している。中国三大九龍壁は故宮を含めた北京に二ヶ所、そしてもう一ヶ所は雲崗石窟のある大同にある。

 故宮の背後には、明の時代に作られた人工の丘である景山がある。景山は風水の思想の元、紫禁城の北という位置に作られたもので、明・清の時代には皇帝の庭園として利用されていた。現在は公園として整備され、公開されている(故宮とは別料金)。ここは明の時代の最終皇帝である崇禎帝が、首吊り自殺をした槐の木があることでも有名だ。丘の山頂には万春亭という堂があるのだが、ここから見る故宮の眺めは素晴らしい。特に夕日に照らされる故宮は、瑠璃瓦や壁が黄金色に輝き格別に美しい。ここには、ぜひとも故宮内部を見た後、夕方の時間に訪れていただきたい。

 故宮の西側には西苑と呼ばれる離宮群がある。これは北京の水源確保のために作られた三つの湖(北海、中海、南海)と庭園から成るものだ。現在中南海は中国政府の施設があり見学することはできないが、北海は公園として公開されており見学することができる。もう一つの北京の九龍壁があるのはこの北海公園だ。これら以外にも、北京市内には皇帝が天に祈りを捧げた天壇や、清の時代に大々的に整備された巨大庭園、頤和園などといった、明・清の皇帝に関する文化財が多く現存している。

(2007年8月 訪問)

写真
■北京の故宮博物院