負の遺産

 世界遺産リストに記載されている物件は、それぞれ顕著で普遍的な価値が認められたものです。それらは見るも見事な建築や町並み、歴史的に貴重な史跡など様々ですが、「人類が犯した過ちの象徴」として世界遺産リストに記載された物件もいくつかあります。それこそが「負の遺産」と呼ばれるものです。

 負の遺産には、人類の負の行為を後世に伝え、二度と過ちを繰り返さないようにという意味合いが込められています。その性質上、負の遺産は登録基準(6)が適用されます。



 負の遺産はUNESCOによって正式に定められているわけではありませんが、一般的に負の遺産とされる世界遺産は以下のようなものがあります。

件名 [世界遺産遺産リスト記載年] <保有国>

ゴレ島 [1978年] <セネガル共和国>
アウシュヴィッツ・ビルケナウ ナチスドイツ強制絶滅収容所 [1979年] <ポーランド>
原爆ドーム [1996年] <日本国>
ロベン島 [1999年] <南アフリカ共和国>
バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群 [2003年] <アフガニスタン・イスラム共和国>
モスタル旧市街の古橋地区 [2005年] <ボスニア・ヘルツェゴビナ>
アプラヴァシ・ガート [2006年] <モーリシャス共和国>
オーストラリアの囚人遺跡群 [2010年] <オーストラリア連邦>
ビキニ環礁核実験場 [2011年] <マーシャル諸島共和国>

 これらの他にも、負の遺産の意味合いを持つ世界遺産は数多くあります。世界遺産で重要なのは、その遺産を見る立場により価値が変わってくるということです。

 南米などかつて植民地支配を受けていた地域に残る文化遺産は、その植民地時代による原住民の過酷な労働などを思い起こさせる物件も少なくありません。またアフリカは16世紀から19世紀の間、奴隷貿易に支配されていました。その時代のアフリカの文化遺産は奴隷という言葉を抜きに語ることはできません。

 いずれにせよ、世界遺産は一方だけの方向だけから見た価値だけで評価するのではなく、様々な角度から見た価値を知り、それを認める必要があるのです。