世界遺産リストへの記載(いわゆる世界遺産登録)は、次のようなプロセスを経て行われます。
各国による候補地の選定
↓ 各国が候補地の一覧表である暫定リストをUNESCOに提出 ↓ 各国がUNESCOに推薦書を提出 ※注1 ↓ UNESCOが専門機関に各候補の評価を依頼 (文化遺産候補はICOMOS、自然遺産候補はIUCNが担当 ※注2) ↓ 各専門機関が推薦書の精査、および現地調査を行い、その評価をUNESCOに勧告 (評価は「記載」「情報照会」「記載延期」「不記載」の四段階 ※注3) ↓ 各専門機関の勧告を元に世界遺産委員会が評価を議決 ※注4 ↓ 委員会で「記載」の議決を受ければ晴れて世界遺産リストに記載 推薦書は毎年1月末頃に締め切られ、翌年の夏頃に専門機関による現地調査が入り、その翌年初夏の世界遺産委員会で審議されます。すなわち、推薦書の提出から世界遺産リストへの記載が決まるまでには、最短でも1年半ほどかかるという事になります。 当然ながら、暫定リスト記載や推薦準備の期間を含めればもっと長い時間が必要となります。近年は世界遺産登録運動も盛んですが、世界遺産リストへの記載ばかりを急ぐのではなく、一つ一つ条件を整え、構成資産を磨いていく長い目が必要です。 【※注1:世界遺産の価値を有しながら推薦されない物件】
世界遺産リストへの記載は、各国の推薦に基づいて行われます。よって、いくら世界遺産にふさわしい物件であっても、その国がUNESCOに推薦しなければ世界遺産リストには記載されません。そこには、各国のお国事情が大きく影響してきます。 例えば、世界遺産リストに記載されると保護義務が生じ、その一帯の開発ができなくなります。それを嫌がって推薦を行わないケースがあります(ミャンマーのパガン等)。また政治的理由、宗教的理由、世界遺産リストへの記載に伴う観光地化を嫌がって推薦されない、あるいは推薦を辞退するケースもあります(サウジアラビアのメッカ、インドのスリ・ハリマンディル・サーヒブ等)。 日本の百舌鳥古墳群、古市古墳群などの巨大前方後円墳群も、間違いなく世界遺産の価値を有する文化遺産ですが(これらは2010年に暫定リスト記載)、主要構成要素の多くが宮内庁所管であるが故に文化財保護法による史跡指定が難しく、どのように文化財としての保護措置を取るのかが課題となっています。 【※注2:各専門機関について】
・UNESCO(国際連合教育科学文化機関) 教育、科学、文化の発展と推進を目的とした国際連合の専門機関。世界遺産条約においては管理や啓蒙活動などを行います。また、危機にさらされている世界遺産については緊急援助を提供する場合があります(基本的に、危機遺産以外はUNESCOが金銭的援助を行うことはありません)。 ・ICOMOS(国際記念物遺跡会議) 世界の文化財の保存に関わる専門家の国際的な非政府組織。世界遺産条約においては、文化遺産候補の評価を担当します。 ・IUCN(国際自然保護連合) 政府機関、非政府組織からなる国際的な自然保護機関。世界遺産条約においては、自然遺産候補の評価を担当します。 【※注3:専門機関の勧告】
・記載(inscription) 世界遺産リストへ記載されるにふさわしい候補への評価。 ・情報照会(referral) 追加情報を必要とする候補への評価。推薦書の再提出は必要ありませんが、要求された情報を提示の上、再審議は翌年以降となります。 ・記載延期(deferral) さらなる綿密な調査、推薦書の是正が必要な候補への評価。推薦書を提出しなおし、再び専門機関の調査を受けた上で再審議される事となります。 ・不記載(not to inscribe) 登録基準が満たされていない候補への評価。委員会で「不記載」の決議を受けた候補は基本的に再推薦が不可能となりますので、専門機関により「不記載」の勧告を受けた物件は世界遺産委員会における審議の前に推薦を撤回するケースがほとんどです。 【※注4:専門機関の勧告と、委員会決議の相違】
近年、専門機関の勧告で「情報照会」や「記載延期」の評価を受けた候補が、委員会において「記載」と決議されるケースが頻発しています。 その中には世界遺産保有国の地域格差(世界遺産はヨーロッパに多く、アフリカや環太平洋に少ないのが現状です)を改善する為、世界遺産が少ない地域、あるいは世界遺産を一つも保有していない国の候補を「記載」に格上げするポジティブなケースもあれば、なんとか記載にこぎつけようとロビー活動を展開するケース、あるいは政治的な取り引きが垣間見れるケースもあります。 どのようなケースにせよ、やはりプロ集団である専門機関の勧告を尊重するべきだと個人的には思います。 |