大仙院書院庭園

―大仙院書院庭園―
だいせんいんしょいんていえん

京都府京都市
特別名勝 1952年指定


 洛中北部の幹線道路である北大路通。賀茂川から鹿苑寺にかかるその中間地点には、臨済宗大徳寺派の大本山、龍寶山(りゅうほうざん)大徳寺の一大伽藍が広がっている。大徳寺の本坊と中心伽藍を核として、それらを幾重にも取り囲むように塔頭(たっちゅう)の土壁が連なるその境内は、静謐かつ厳粛な禅寺の空気をいまだ失う事無く湛えている。24ある大徳寺の塔頭の中で、最古級の歴史を有し、大仙院を隆盛を支えてきたのが大仙院だ。その本堂にあたる方丈は、四方を赴きある枯山水庭園によって取り囲まれている。そのうち、方丈東北部の一室である「書院の間」に沿ったL字型の敷地に見られる庭園が、国の史跡および特別名勝に指定されている大仙院書院庭園である。




大仙院入口へ向かう路地
なお、大仙院の内部は庭園を含めて撮影禁止である

 大仙院が開かれたのは、室町時代の永正6年(1509年)。後柏原天皇や公家、武士など、幅広い有力者からの帰依を受けていた、大徳寺76世住職の古岳宗亘(こがくそうこう)によって創建された大徳寺の塔頭寺院である。文亀2年(1502年)に72世住職の東渓宗牧(とうけいそうぼく)によって創建された龍源院(りょうげんいん)に次ぐ歴史を有し、北派の大仙院、南派の龍源院として、共に大徳寺二大法系を築き上げ、大徳寺の隆盛に貢献したという。また、大千院は千利休とも関係が深く、宗亘の後も、大林宗套(だいりんそうとう)や笑嶺宗訴(しょうれいそうきん)、春屋宗園(しゅんおくそうえん)、古渓宗陳(こけいそうちん)といった、茶の湯にゆかりある名僧たちが続いていった。




大仙院入口前に植えられた木々
右奥に見える檜皮葺きの屋根が大仙院本堂(方丈)だ

 大仙院の方丈が建てられたのは、大仙院の創建とほぼ同じ永正10年(1513年)の事である。南側三室、北側三室の、典型的な方丈建築である大仙院方丈のうち、北東の一部屋は「書院の間」と称され、住職の居室として用いられていた。その書院の間の東側、北側に面するL字型の狭隘な敷地には、白砂に多数の岩石や木々を配して深山幽谷を表した、枯山水庭園が築かれている。この庭園は書院庭園と呼ばれ、方丈の建立と時を同じくして、古岳宗亘によって作庭されたものと考えられている。江戸時代の文政年間(1818〜1830年)に描かれた庭園の起こし絵図と比べても現在の様子と違いが無く、創建時よりほぼそのままの姿が残されている室町時代の枯山水庭園として名高い。




大仙院の門から方丈を見る

 大仙院書院庭園の中心は、L字の角に位置する滝石組であろう。手前左に不動石、右に観音石と呼ばれる巨石を配し、その二石の足元には小さな鯉魚石が据えられている。観音石の右奥には、三段に組まれた滝石組が隠れるように配されているが、これは山深い渓谷の奥にひっそりとたたずむ滝の様子を表現している。また、これらの石には縦に白い筋が入っており、落下する水を表している。滝石組の前には橋が架けられており、その手前で渓流は左右へ分岐する。その左右には、それぞれ一本の松が植えられた小島が、対を成して作られている。向かって右が鶴島、左が亀島であり、これらはすなわち、滝組を含む中央の山塊が神仙蓬莱思想の蓬莱山を表しているという事である。




大仙院庫裏(左)と鐘楼(右)

 蓬莱山の滝から流れた水は、渓流を下り、幅の広い川へと至る。亭橋(渡り廊下)によって隔てられた書院庭園南側に広がるのは、大河の光景だ。そこには、白砂の川の中、舳先を上げた宝船が悠々と進み、その背後には比叡山の山並みを模した石組が鎮座する、雄大な風景が表現されている。亭橋の壁には花頭窓が設けられており、それを正面から眺めれば、蓬莱山や滝石組が花頭窓のフレームに切り取られた、一つの絵画のように見える。なお、これら書院庭園の全景を眺めるには、書院の間とその南の礼の間の襖を全て外す必要がある。そうして望む事ができる書院庭園は、さながら立体化襖絵のような、一つの完成された水墨画世界の景観に昇華するのである。




各箇所にさりげなく庭が築かれている

 大仙院書院庭園は、方丈の東側と北側に面したL字型の枯山水庭園であるが、方丈の南側と西側に面した範囲にも、枯山水の庭園が築かれている。書院庭園よりやや作庭の時期が下るこちらの庭園は、方丈庭園として国の名勝に指定されている。一面に白砂が敷かれ、方丈正面に一対の盛砂と、右奥隅に一本の沙羅双樹のみを配し、その周囲を二段の刈り込みで縁取っただけのあまりにシンプルな枯山水ではあるが、それ故、禅の修行場にふさわしい、枯山水の原点を思わせる庭園となっている。またその一面の白砂は、蓬莱山より出でた水が大河を下り、中海を通り、そして最終的に到達する凪の大海を表しており、書院庭園より連続するストーリーをこの方丈庭園で完結させている。

2008年02月訪問
2010年04月再訪問
2010年09月再訪問




【アクセス】

「京都駅」から市バス101系統、205系統、206系統で約40分、「大徳寺バス停」下車、徒歩約10分。

【拝観情報】

拝観料400円、拝観時間は3〜11月が9:00〜17:00、12〜2月が9:00〜16:30。

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