大徳寺方丈庭園

―大徳寺方丈庭園―
だいとくじほうじょうていえん

京都府京都市
特別名勝 1952年指定


 京都に座したる臨済宗大徳寺派の大本山、大徳寺。20以上もの塔頭(たっちゅう)が軒を連ね、仏殿や法堂などの巨大な堂宇が一直線上に建ち並ぶ、壮大な伽藍の禅宗寺院である。中心伽藍の北寄りに位置する大徳寺本坊、その最も奥まった箇所において、まるで周囲の環境を遮断するかのように高い築地塀と生垣によって囲まれた一角に、大徳寺の方丈が存在する。江戸時代初期に建立された、格式高いその方丈の前には、立石並び、白砂輝く、枯山水の日本庭園が広がっている。高度な思想と技術をもって造営されたその大徳寺方丈庭園は、江戸時代を代表する枯山水庭園の一つとして、方丈建築の好例と称される大徳寺方丈と共に保護すべく、特別名勝に指定されている。




松の木が生い茂る大徳寺の中心伽藍
なお、大徳寺方丈および方丈庭園は全て撮影が禁じられている

 大徳寺の開山は、大燈国師(だいとうこくし)こと宗峰妙超(しゅうほうみょうちょう)である。播磨に生まれた妙超は、11歳で圓教寺(えんきょうじ)に入り、天台仏教を学んでいた。後に禅宗に目覚め、臨済宗の僧侶である南浦紹明(なんぽじょうみん)の元に付いて修行に励み、26歳の時に印可(いんか)を授かる。正和4年(1315年)には、現在の大徳寺の位置に小堂を築いており、その後は花園天皇の帰依を受け、正中2年(1325年)に大徳寺の創建と相成った。大徳寺は後醍醐天皇とも関係が深かったため、足利氏の時代には冷遇されたものの、その後、江戸時代には一休禅師や沢庵和尚などといった数多くの名僧を輩出し、明治維新後も寺勢衰える事無く現在に至る。




土塀連なる路地には塔頭寺院が建ち並ぶ

 大徳寺の方丈は、江戸時代初期の寛永12年(1635年)、大燈国師300回忌の際に、京都の豪商であった後藤益勝(ごとうますかつ)の寄進によって建て替えられたものだ。大規模方丈建築の一例として、国宝に指定されている。その方丈前に広がる庭園もまた、方丈の普請と時を同じくして作庭されたものである。主に方丈の前庭として広がる南庭と、方丈の東側にたたずむ東庭とに分ける事ができる。そのうち南庭の作庭者は、「大徳寺誌」によると、大徳寺の住職であった天祐紹杲(てんゆうしょうこう)であるとされるが、定かではない。東庭は、数多くの城郭や作庭の普請を行ってきた建築の名手、小堀遠州(こぼりえんしゅう)の手によるものとの説があるが、これも定かではない。




大徳寺にあるもう一つの唐門、勅使門(重要文化財)

 大徳寺方丈庭園の南庭は、奥行きのある矩形の敷地の一面に、広がる白砂が印象的だ。右手前に小さな島を置いて近景とし、奥の築地塀沿いに木々や石組を配して遠景としている。方丈の中央正面には清めの盛砂が一対並べられ、その延長線上には彫刻や飾金具が施された唐門がある。この唐門は豊臣秀吉が造営した聚楽第(じゅらくだい)に建っていたものと言われ、国宝に指定されている。また、南庭の左奥には幽谷の山々を表現した刈込みが設けられ、その前には二個の石を立てて水分石を置いた、滝石組が配されている。この滝石組は、大徳寺の塔頭である大仙院の庭園に見られる滝石組との類似性が見られ、大仙院にいた事がある天祐和尚作庭の根拠と考える事もできる。




檜皮葺きの茶堂の奥に、方丈の築地塀と唐門が存在する

 一方東庭は、奥行きが狭く横に細長い土地に、16個の石を配した庭園となっている。その石の並びは、右から左へ5、2、3、2、2個ずつのグループに分かれている。その分け方の解釈はいまだ定まっていないものの、縁起の良い数である奇数の並びとして石庭に良く用いられる七五三の石組、あるいはそれぞれを単独の石とみなし、十六羅漢の石組であるとも言われている。それらの石は、右から左に行くほど大きなものが使われており、また庭園の面積も左へ行くほど奥行きが増し、広くなっている事から、そこにはパースペクティブを意識した遠近法の手法を認めることができる。このような遠近法を利用した庭園の作りは、小堀遠州が好んで用いていた手法でもある。




大徳寺本坊の北隣に位置する真珠庵の入口
右奥に見える屋根が大徳寺本坊方丈である

 大徳寺方丈庭園は、かつてはその東に比叡山を借景として望んでいた。しかしながら、近代に入ると共に大徳寺の近隣は宅地として開発され、比叡山への遠望も見られなくなった。現在では庭園の東側に背の高い木を植えて視界を遮断しており、特に東庭はかつての眺めとは趣を異にしている。江戸時代には、洛内のどこからでも比叡山が望めたと言い、大徳寺方丈庭園のように比叡山を借景とする庭園も多かった。中でも特に著名なのが、後水尾天皇が築いたとされる圓通寺(えんつうじ)庭園である。また、大徳寺の塔頭、本坊北隣に位置する真珠庵(しんじゅあん)の庭園も、かつては比叡山を借景としていたが、今では本坊の方丈庭園と同じように、木々によって視界を遮っている。

2010年04月訪問




【アクセス】

「京都駅」から市バス101系統、205系統、206系統で約40分、「大徳寺バス停」下車、徒歩約10分。

【拝観情報】

通常非公開。
春、秋に行われる京都非公開文化財特別公開などで不定期に公開される。

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