岡山後楽園

―岡山後楽園―
おかやまこうらくえん

岡山県岡山市
特別名勝 1952年指定


 岡山三大河川の一つであり、岡山平野を通って瀬戸内へと注ぐ旭川。その流れは河口付近で蛇行し、そこに広々とした中州を作り出した。特別名勝岡山後楽園は、その中州に造られた岡山藩の大名庭園である。岡山城の本丸より旭川を隔てた対岸に位置し、岡山城天守や背後の山々を借景として、そのどこを見ても絵になるよう計算された庭園は、まさに元禄文化を代表する名園であると言えるだろう。同時代に造られた他の庭園と比べても、規模、質ともども傑出しており、日本を代表する江戸期の大名庭園として、金沢の兼六園、水戸の偕楽園と共に日本三名園の一つに数えられている。




岡山城天守を借景とし、沢の池が広がり唯心山が立つ

 岡山後楽園の歴史は、岡山藩二代藩主の池田綱政(いけだつなまさ)が、家臣の津田永忠(つだながただ)に命じて庭園を作らせたことに始まる。津田永忠は初代藩主の池田光政(いけだみつまさ)によって重用されてきた土木の名手であり、池田家墓所造をはじめ、閑谷学校の建設、新田開発や用水工事など、岡山藩の土木事業に多大なる貢献を残した人物である。庭園の工事は貞享4(1687)年に始められ、14年後の元禄13(1700)年にひとまずの完成を見た。その庭園は岡山城の背後にあることから後園と呼ばれるようになり、後の明治時代、市民に一般公開がなされる際に後楽園と改められ、今の名となったのだ。




沢の池に浮かぶ中の島(中央)および御ノ島(右)

 岡山後楽園は沢の池を中心とした池泉回遊式の庭園である。しかしながらその敷地は極めて広大であり、池泉だけがすべてということではなく、芝生地や森林、茶畑と、その景観は非常に多様である。後楽園を作らせた綱政は田園風景が好みであったことから、築庭当時は庭園内に田畑が広がっていたが、五代藩主、池田治政(いけだはるまさ)の時代に至ると財政難に陥り、維持費のかかる田畑を廃して芝生に替えられた。明治に入ってからはさらに芝生化が進み、そうして今のような一面芝生の明るい庭園になったという。後楽園はその時代ごとに、藩主の好みに応じて細かな変更が加えられ、成熟して行ったのだ。




蓮の葉で覆われた花葉(かよう)の池と、7.6mもの高さがある大立石
この巨大な花崗岩は分割して運ばれ、ここで組み立てられた

 庭園内で使用する水は、旭川の5km上流から水路で引いており、サイフォンの原理を用いて川の対岸から中州の庭園へと引き込まれている。庭園内に入った水は曲水を流れ、各池を通って再び旭川へと排出される仕組みだ。後楽園で最も大きい沢の池には、島茶屋が建つ中の島と、釣殿のある御野島、青松が美しい砂利島の三島が浮かび、またそのほとりにはツツジが植え込まれた唯心山が築かれ、そこから園内全体を見渡すことができるようになっている。他にも大立石が見事な花葉の池や、花交の滝があったりと、岡山後楽園で見ることができる水の情景は多彩である。




岡山後楽園で最も重要な建造物である延養亭(えんようてい)

 かつて庭園内には数多くの建造物が存在していたが、それらのほとんどは太平洋戦争の空襲により、岡山城天守とともに焼失してしまった。しかしながら、その後の再建により焼失した建物も蘇り、昭和42年、後楽園は元の姿を完全に取り戻すことができた。後楽園の建物の中で最も重要なのは、庭園西側に建つ延養亭だ。池田綱政が後楽園を築庭した際、まず始めに建てられた建物で、江戸時代には藩主の休養や賓客の接待場、講義場などとして用いられていた。また、延養亭の隣には昭和24年に山口県の岩国から移築された鶴鳴館(かくめいかん)があり、それら二棟が後楽園の主要建造物となっている。




建物の中を曲水が通る流店(りゅうてん)

 また、岡山後楽園には数多くの亭舎があり、池田綱政が最も好んで利用していた廉池軒(れんちけん)、森林の中にたたずむ茂松庵(もしょうあん)、幕末の家老下屋敷から移築した茶祖堂(ちゃそうどう)、馬場で稽古に励む藩士を見るための観騎亭(かんきてい)、弓を見るための観射亭(かんしゃてい)、そして前述の中の島にたたずむ島茶屋という具合に、様々な形式の建物が庭園内に点在している。それら後楽園の建物の中で最もユニークな建築物といえば、やはり流店だろう。これは二階建ての休憩所であるが、一階部分にはなんと曲水の水路が通されている。これは全国的にも例が無い、極めて珍しい建築である。

2009年08月訪問




【アクセス】

JR山陽本線「岡山駅」より徒歩約25分。

JR山陽本線「岡山駅」より岡電バス「藤原団地行き」で約12分、「後楽園前バス停」下車すぐ。

【拝観情報】

拝観料400円。
拝観時間は3月20日〜9月30日が7時30分〜18時(入場は17時45分まで)、10月1日〜3月19日が8時〜17時(入場は16時45分まで)。

【関連記事】

旧閑谷学校 附 椿山石門津田永忠宅跡および黄葉亭(特別史跡)
兼六園(特別名勝)
栗林公園(特別名勝)