大津市坂本

―大津市坂本―
おおつしさかもと

滋賀県大津市
重要伝統的建造物群保存地区 1997年選定 約28.7ヘクタール


 比叡山の東山麓、琵琶湖を望む日吉大社の門前に位置する坂本は、主に上坂本と下坂本に分けることができる。上坂本は延暦寺および日吉大社の門前町として、琵琶湖に面した下坂本は延暦寺へ物資を送る荷揚げ港としてそれぞれ発展、中世には近江で最大の都市となった。




上坂本の入口、日吉大社の大鳥居

 下坂本と上坂本のうち、現在は上坂本のみが当時の面影を色濃く残しており、それら上坂本の町並みが重伝建に選定されている。京阪線坂本駅から日吉大社にかけて、伸びる日吉大社の参道の両側には延暦寺の里坊群が建ち並び、特徴ある門前町景観を作り出している。




日吉大社の参道に沿って里坊が並ぶ

 里坊とは、厳しい自然の山上ではなく、環境穏やかな山麓に作られた僧坊のことである。坂本に里坊が作られ始めたのは元亀2年(1571年)以降、織田信長による延暦寺焼き討ちが行われた後だという。寺の再建にいそしんだ老僧の、隠居後の住まいとしてこれらの里坊が設けられた。




比叡山延暦寺直轄の門跡寺院である滋賀院

 厳しい修行を終えた老僧たちは、里坊に思い思いの庭園を造り、余生を楽しんだ。そのため坂本の里坊では僧侶個人個人の好みに応じた多種多様な庭園群が残されている。なお、坂本には50あまりの里坊があるが、そのうちとりわけ優れた10の里坊庭園が国の名勝に一括指定されている。




旧竹林院庭園

 それら名勝指定を受けた坂本の里坊庭園のうち、旧竹林院庭園は江戸時代初期に作られた池泉回遊式庭園だ。池を中心に滝組と築山を配し、背後にそびえる八王子山を借景とする。また、ここには亭主の両側に客が座るという「天の川席」と呼ばれる大変珍しい形式の茶室も存在している。




穴太衆(あのうしゅう)積みの石垣が連なる坂本の町並み

 坂本の町並み景観を構成する重要な要素となっているのが、その至る所で見られる石垣である。坂本の石垣は、自然のままの石を巧みに積み上げる穴太衆積みと呼ばれる技法で作られている。それは延暦寺を始め、全国に残る約8割の城の石垣工事を務めた穴太衆と呼ばれる石工職人たちの手によるものだ。

2007年09月訪問
2017年11月再訪問




【アクセス】

京阪電気鉄道石山坂本線「坂本駅」より徒歩約5分。
JR湖西線「比叡山坂本駅」より徒歩約15分。

【拝観情報】

町並み散策自由(ただし、住民の迷惑にならないように)。

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