甲州市塩山下小田原上条

―甲州市塩山下小田原上条―
こうしゅうしえんざんしもおだわらかみじょう

山梨県甲州市
重要伝統的建造物群保存地区 2015年選定 約15.1ヘクタール


 山梨県東部、甲府盆地を遠望する山の中腹に上条という集落が存在する。日当たりの良い南向きの傾斜地に、石垣を築いて雛壇状に造成された土地には、今もなお江戸時代中期から明治時代にかけて築かれた、茅葺屋根の古民家が11棟現存している。明治時代中期以降は養蚕が盛んとなったことから、蚕を育成する場である屋根裏の日当たりや風通しを良くするため、屋根の中央部分をせり上げた「突き上げ屋根」が設けられるようになった。大正時代から昭和初期にかけては養蚕に特化した蚕室が築かれ、現在に通じる集落の景観が築かれた。これらの家々は周囲の畑や山林の風景と相まって、この地方ならではの特徴的な集落景観を作り出している。




上条集落の中心に位置する観音堂
村の集会所も兼ねており、内部は畳敷きで広く作られている

 大菩薩嶺をはじめとする奥秩父山塊の山々に端を発する重川。その川沿いの下小田原集落から1キロメートルほど上がったところに位置する上条集落では、斜面から南に延びる舌状台地の付け根に観音堂を建て、それを取り囲むように家屋を建てている。上条集落の形成時期は定かではないが、観音堂に安置された百観音像を刻んだ木食白道について記した「萩原木食繁昌」によると、天明元年(1781年)8月に「上条より百体観音像の制作を依頼された」とある。また天明4年(1784年)の「下小田原村上条組屋敷検地御水帳写」によると、正徳3年(1713年)の当時に11軒の家があったことが記されており、江戸時代中期には現在と同規模の集落が存在していたことが分かる。




金剛山の尾根伝いを通る旧道
正面には金井加里神社の社叢、左右にはスモモ畑が広がっている

 上条の舌状台地は金剛山と呼ばれ、かつてはその尾根伝いが集落へと至る道筋であった。その中程には村社である金井加里神社が鎮座しており、また南東部には真言宗の仏教寺院である福蔵院の境内が位置するなど、金剛山は集落の出入口であると共に信仰の場でもあったのだ。集落の上部や金剛山の左右を通る谷間は耕作地として用いられ、江戸時代には主に煙草を栽培していたという。明治時代に入って甲州盆地においても養蚕が行われるようになると、集落より上部の畑には蚕の餌となる桑の木が植えられ、また下部の畑は水田として利用されていた。養蚕が衰退した昭和50年代以降は、ブドウやスモモといった果実の栽培が主産業となっている。




「突き上げ屋根」を持つ、急勾配の茅葺屋根が特徴的だ

 上条集落の主屋は最も古いものでは17世紀後半まで遡る。茅葺の切妻屋根で平入を基本とするが、昭和20年代末期頃より屋根を金属板で覆うようになり、現在茅葺を目にすることができるのは修復された中村家住宅だけだ。鉄板で覆う際に屋根を短く切り詰めて下屋庇を付け足しているが、古くは下屋庇を備えず、人の手が届くくらいの高さまで屋根を低く葺き下していたという。昭和以降は棟に腰屋根を据えた桟瓦葺きの主屋も建てられるようになった。いずれも壁は木部を露出した真壁であり、土壁に漆喰を塗って仕上げている。一階部分は開口部を大きく設けており、かつては障子と雨戸をはめ、玄関も板の大戸であったが、現在はガラス戸に取り換えられていることが多い。




江戸時代後期に建てられた中村家住宅
近年修復され、一泊3000円で泊まることもできる

 主屋の平面は等高線に沿って細長く、横一列にドジ(土間)、イドコ(居間)、ザシキ(座敷、前後二室)が並ぶ。そのうちイドコとザシキの前には内縁を設けている。古くは平屋であったが、明治時代中期以降は養蚕のため屋根裏に床を張って二階建てとし、「突き上げ屋根」が設けられるようになった。二階部分はさらに二層に分けられ、そのうち上層は「ワニカイ」と称されていた。蚕室は桟瓦葺きの切妻屋根で二階建てとする。壁は真壁で、漆喰で仕上げるものとそうでない中塗り仕上げのものがある。主屋に並べて建てられており、中には二階部分を主屋と接続させて利便性を高めているものもある。蚕室以外にも、物置や土蔵といった付属屋が残る家も多い。




道祖神場に祀られている丸石

 上条集落の近隣一帯からは御影石が産出される。集落内の石垣や石段にはそれらの石材が使用されており、また石造物も数多い。集落入口には六角形の火袋の各面に地蔵を彫刻した六地蔵幢が置かれ、観音堂の前にも青面金剛をかたどる庚申塔や六地蔵の石仏が鎮座する。また集落奥の突き当りには道祖神場があり、祭壇に数個の丸石が置かれている。道祖神は集落の境界などに祀り、子孫繁栄や災厄の侵入防止を願う村の守り神であるが、塩山やその周辺地域では丸石を道祖神として祀ることが多い。小正月にはこの道祖神に杉の枝葉で小屋を組み、どんど焼きの際にはそれを燃やして一年の無病息災や農作物の豊作を祈願するという。

2015年05月訪問




【アクセス】

JR中央本線「塩山駅」より甲州市市民バス「大菩薩峠登山口線」で約20分、「神金保育所バス停」下車、徒歩約20分。

【拝観情報】

町並み散策自由(ただし、住民の迷惑にならないように)。

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