金沢の文化的景観 城下町の伝統と文化

―金沢の文化的景観 城下町の伝統と文化―
かなざわのぶんかてきけいかん じょうかまちのでんとうとぶんか

石川県金沢市
重要文化的景観 2010年選定


 石川県の県庁所在地である金沢市は、江戸時代に加賀藩の城下町として加賀百万石と称される程の繁栄を見せた北陸一の地方都市である。幸いにも第二次世界大戦での空襲を免れた金沢の町は、近代都市として成長を遂げた今もなお道路や区画などといった町の基本的な部分は藩政時代の町割を踏襲しており、また市内には数多くの文化財や古い町家が高い密度で残されている。それらの寺社や町並みは、金沢城跡や兼六園、惣構堀といったかつての城郭遺構と相まって、藩政時代に熟成された伝統文化や伝統産業が色濃く香る城下町としての歴史的景観を今に伝えており、都市景観としては宇治に続いて二例目となる2010年に重要文化的景観の選定を受けた。




平成22年(2010年)に復元された金沢城の鯉喉櫓台といもり堀

 金沢の町のおこりは戦国時代の天文15年(1546年)、現在の金沢城跡にあたる小立野台地の先端に一向宗(浄土真宗)の尾山御坊が置かれ、その周囲に寺内町が開かれた事に始まる。尾山御坊は城塞化された寺院であり、また加賀一向一揆の拠点であった。天正8年(1580年)、織田家の家臣である佐久間盛政(さくまもりまさ)が尾山御坊を攻め落としてその場所に金沢城を築城。後に前田利家(まえだとしいえ)が金沢城(尾山城)に居城を移し、そのまま江戸時代を向かえて加賀藩が成立した。以降、加賀藩は徳川家と親密な関係を築き、外様大名でありながら準親藩として幕府から特別な扱いを受けていた。その城下町は多大に栄え、人口10万人を誇る大都市へと発展した。




煉瓦造りの旧第四高等中学校本館(重要文化財)

 金沢城の北側に広がる尾張町は金沢城の大手門にあたり、有力商家が集まる経済の中心地であった。現在も尾張町には間口の広い大型の商家建築が多数現存し、当時の繁栄と賑わいを今に伝えている。また武家地であった金沢城の南側は町割が大きく取られ、現在は役所や博物館、美術館などの文化施設が集まるエリアとなっている。明治24年(1891年)竣工の旧第四高等中学校本館(現四高記念文化交流館)や大正13年(1924年)竣工の旧石川県庁舎(現石川県政記念しいのき迎賓館)など歴史的建造物を活用したものの他、平成16年(2004年)にSANAA設計で建てられた金沢21世紀美術館など、近代から現代にかけての多様な建築を目にする事ができる。




金沢城と共に金沢のシンボルとなっている尾山神社神門(重要文化財)
初層の三連アーチや三層目のステンドグラスが印象的だ

 なお、金沢城の城下町には仏教寺院がほとんど存在しない。これは元和2年(1616年)、加賀藩三代藩主前田利常(まえだとしつね)が城下町に散在していた一向宗以外の仏教寺院を城下町の入口三ヶ所に移転させた為だ。各寺町を出城とする事で金沢城の守りを固める目的と共に、一向宗の寺院をあえて城下町に残す事で一向一揆を防ぐ意味合いもあった。一方、神社は金沢城の周囲にいくつか存在する。特に有名なのが尾山神社で、明治8年(1875年)に建てられた神門は和洋折衷の特異な三層楼閣門である。また金沢城の北西に位置する尾崎神社は、金沢城北の丸に存在していた東照三所大権現社を明治時代に移転したもので、その社殿は寛永20年(1643年)の建立である。




大野庄用水が流れる長町武家屋敷

 金沢の町を歩いていて気付くのが水の豊富さである。天然の濠として城下町を守っていた浅野川と犀川はもちろんの事、金沢城下には辰巳用水、大野庄用水、鞍月用水といった水路が巡らされており、今もなお清らかな流れを湛えている。大野庄用水は金沢で最も古い水路であり、金沢城を築城する際の資材運搬にも使われたという。また鞍月用水はその一部が外惣構堀としての機能を有していた。辰巳用水は金沢城の防火用水確保の目的で寛永9年(1632年)に完成したもので、約11キロメートル上流から隧道と開渠を通じて水を引くなど当時の土木技術の高さが垣間見れる。これらの水路は城下町の生活用水としても用いられ、今もなお下流の農業用水として重宝されている。




城下町の東を流れる浅野川

 外様であった故に江戸幕府に警戒されていた加賀藩は、その厳しい目を反らす為に文化振興政策を執り、漆工や金工などの工芸生産を奨励した。金沢城の御殿内に御細工所と呼ばれる職人工房を設けるなど技術の向上に努めた結果、様々な工芸技術が発達し、特に金箔の生産は現在全国シェアの98%を占める程である。幕府は当時、江戸と京以外での金箔の生産を禁止する「箔打ち禁止」を出していたのだが、金沢では密かに金箔が打ち続けられ技術が維持されてきた。また染物では、京都の宮崎友禅斎(みやざきゆうぜんさい)が金沢に伝えた加賀友禅が知られている。冬季の浅野川では友禅の染料を落とす友禅流しが行われ、その光景は冬の風物詩となっている。

2007年07月訪問
2009年11月再訪問
2012年10月再訪問




【アクセス】

JR北陸本線「金沢駅」より北鉄バスで約15分、「兼六園下バス停」下車すぐ。

【拝観情報】

散策自由(ただし、住民の迷惑にならないように)。

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