―日根荘大木の農村景観―
ひねのしょうおおぎののうそんけいかん
大阪市泉佐野市 重要文化的景観 2013年選定 大阪府と和歌山県を分かつ和泉山脈に聳える燈明ヶ岳(とうみょうがだけ)。犬鳴山(いぬなきさん)とも呼ばれるその山塊に端を発する樫井川(かしいがわ)は、「大木(おおぎ)」の盆地を経てから「日根野(ひねの)」の平野に出て大阪湾へと注ぎ込む。中世の頃、これらの一帯には五摂家のひとつである九条家の荘園「日根野荘」が存在した。そのうち山々によって囲まれた大木地区では荘園時代に由来を持つ地名や用水が現在にまで継承されており、また19世紀後半に描かれた『大木村絵図』などと比較しても土地利用の形態が大きく変化していないことが分かる。中世荘園にルーツを持ちつつ、近代から現代にかけて緩やかに進化してきた農村景観として、2013年国の重要文化的景観に選定された。 日根野荘は鎌倉時代の天福2年(1234年)に成立し、戦国時代の天文年間(1532〜1555年)まで維持された。当時の大木地区は北接する土丸地区と併せて「入山田村(いりやまだむら)」と呼ばれており、舟淵村・菖蒲村・大木村・槌丸村(現在の上大木・中大木・下大木・土丸)の四ヶ村によって営まれていた。日根野荘については宮内庁所蔵の『九条家文書』をはじめ、正和5年(1316年)に作成された『日根野村絵図(ひねのむらえず)』や九条政基(くじょうまさもと)が文亀元年(1501年)から永正元年(1504年)にかけて入山田村に滞在した折に記した『政基公旅引付(まさもとこうたびひきつけ)』など史料が豊富に残されており、当時の様子を伺い知ることができる荘園として貴重である。 日根野荘では各史料に記されている寺社や溜池、水路や丘陵を現在も確認することができ、計16箇所が「日根野荘遺跡」として国の史跡に指定されている。そのうち大木地区に存在するのは「長福寺跡」「火走神社」「香積寺跡」「蓮華寺」「毘沙門堂」「円満寺」の6箇所だ。「長福寺跡」は九条政基が入山田村滞在時に居所としていた寺院で、政基はここで『政基公旅引付』を著した。また「火走神社」は盆の風流(ふりゅう)や芸能の舞台であり、『旅引付』にも滝宮や滝宮大明神の名で記されている。「香積寺跡」は歳末や年始の際、政基に伺候した僧侶がいた寺院で、その境内の跡には今もなお寛正4年(1463年)の五輪塔や天正年間の宝筺印塔といった中世の石造物が残されている。 南北に開けた大木地区の盆地には、貝塚から犬鳴山を経て紀州の粉河(こかわ)へと至る粉河街道と、水間観音から犬鳴山に至る水間道が通っている。集落はこれら二本の旧街道沿いに形成されており、また盆地を縦断する樫井川が作り出した河岸段丘に沿っても家屋が連なっている。大木地区に見られる家屋は茅葺(現在はトタンによって覆われている)の民家や、「腰上げ」と称される瓦葺の厨子二階、切妻屋根に傾斜の緩やかな庇屋根を備えた「錣(しろこ)屋根」の平屋など、昔ながらの伝統家屋が数多い。破風を多く設けたり、「ツノ」や「キバ」といった破風を押さえる棒状の材質を外部に見せるものなど、意匠に凝った家屋が多いのも特徴である。 田畑に用いる農業用水は樫井川の上流に築いた井堰から取水するか、あるいは周囲の山々から湧き出た水を谷筋に築いた溜池で集め、山裾に巡らせた用水路によって導水している。生活用水は各家に設けられた井戸によって賄われており、井戸水を砂利やシュロで濾過して飲用としていた。また庭に「フチ」と呼ばれる池を設える家も存在する。フチは石積みで築かれることが多く、水路の水や谷水を引き込んで野菜や洗濯物の洗い場として利用されていた。集落では主要産業である稲作の裏作として麦やサトウキビ、タマネギなどの栽培も行われており、集落内には「タマネギ小屋」と呼ばれる農作業小屋や、かつて栽培が行われていたタバコの乾燥小屋も現存している。 樫井川源流域の渓流沿いには、葛城二十八宿修験道の根本道場と称される「犬鳴山(いぬなきさん)七宝瀧寺(しっぽうりゅうじ)」が存在する。飛鳥時代の斉明天皇7年(661年)に修験道の開祖である役小角(えんのおづぬ)が開基したとされ、紀伊山地の大峰山上ヶ岳よりも6年早く開山したことから元山上とも称されてきた。首を刎ねられてもなお激しく鳴いて主人に危機を伝えたという「義犬伝説」が残ることでも有名だ。七宝瀧寺という名の通り、山内の渓谷には「七飛瀑」と称される七つの滝「塔の瀧」「弁天の瀧」「布引の瀧」「固津喜の瀧」「行者の瀧」「千手の瀧」が存在しており、古来より変わらない修験道場の風景として今に残されている。 2017年05月訪問
【アクセス】
南海電鉄南海本線「泉佐野駅」またはJR西日本阪和線「日根野駅」より南海ウイングバス南部「犬鳴山行き(21系統)」で約35〜50分、「下大木バス停」「中大木バス停」「上大木バス停」「犬鳴山バス停」下車すぐ。 【拝観情報】
散策自由(ただし、住民の迷惑にならないように)。 ・一関本寺の農村景観(重要文化的景観) ・田染荘小崎の農村景観(重要文化的景観) Tweet |