霊山寺本堂

―霊山寺本堂―
りょうせんじほんどう

奈良県奈良市
国宝 1953年指定


 奈良盆地の西端部、南北に流れる富雄川に沿って、広がりを見せる富雄の里。古くは登美と呼ばれていたその富雄地域に、古刹、霊山寺の伽藍は存在する。戦後、真言宗より相次いで分派独立した古義真言宗の一派、 霊山寺真言宗の総本山である霊山寺では、全面に金箔が貼られた黄金殿や、同じく全面にプラチナ箔が貼られた白金殿などの現代的な寺院建築と共に、中世の古建築が混在するという、極めて不思議な宗教景観を見ることができる。鎌倉時代後期に建立された霊山寺の本堂は、中世密教本堂の典型例として知られており、同じく富雄川沿いに存在し、霊山寺本堂と同時期、同形式で建てられた長弓寺本堂と同じく、国宝に指定されている。




和様を基調にまとめられた、上品な印象の霊山寺本堂

 小野妹子(おののいもこ)の息子である小野富人(おののとみひと)は、壬申の乱に関与した事で右大臣を辞し、登美の山へと閑居した。病人の為に薬師三尊を祀り、薬草湯屋を建てた富人は、人々から鼻高仙人(びこうせんにん)と称されたという。その後の神亀5年(728年)、後の孝謙天皇(こうけんてんのう)である聖武天皇の皇女がノイローゼに臥した際、聖武天皇の夢枕に鼻高仙人が立ち、登美山へ参るべしとのお告げがあった。そこで行基が登美に赴き薬師如来を拝したところ、たちどころに皇女の病が平癒したという。聖武天皇は行基に命じてそこに寺院を建立。登美山はインドの聖山、霊鷲山に似ていた事から、霊山寺と名付けられた。以上が、霊山寺の起源であるとされる。




古式の妻飾が印象的な、霊山寺本堂側面

 当然ながら、その話は伝説の域を出ないものであるが、本尊の薬師三尊像(重要文化財)の胎内からは、平安時代の治暦2年(1066年)と書かれた墨書が発見されており、霊山寺の創建は、少なくともそれ以前に遡る事が分かる。なお、創建時、霊山寺は法相宗の寺院であったが、平安時代、弘法大師空海によって真言宗の教えがもたらされ、以降は法相宗と真言宗の兼学道場になったという。鎌倉時代には北条氏の庇護を受けて堂宇の整備が行われ、21もの僧坊を持つ大寺院として繁栄した。その後も時の権力者に保護され寺は続いたが、明治時代に入ると状況は一転、廃仏毀釈の被害を受けて寺域を半分失い、また200体以上もの仏像が焼却される憂き目にあった。




非常に珍しい尾垂木付きの二手先組物
木鼻は動物を模した大仏様の意匠となっている

 現在の霊山寺本堂は、棟札より弘安6年(1283年)の建立であると判明している。その規模は桁行五間に梁間六間であり、鎌倉後期における密教本堂の典型的様相を呈している。屋根は本瓦葺で入母屋造、正面に一間の向拝が付属する。建具は正面三間、および側面を蔀戸(しとみど)とし、正面両脇間は板戸が入る。組物は二手先で、長く突き出た尾垂木(おだるき)が付いているが、このような例は珍しい。同時期、同形式の建造物である長弓寺本堂は、和様を基調としながらも、鎌倉時代に大陸より伝来した大仏様の様式を積極的に取り入れた、いわゆる新和様を採っているが、霊山寺本堂は、木鼻の意匠などごく一部を除き、日本古来の和様を踏襲した建築となっている。




本堂の向拝越しに鐘楼を見る

 内部は中世密教本堂のセオリー通り、本尊を安置する内陣と、祈りの為の礼堂(らいどう)である外陣を分け、その間を格子戸と菱欄間で隔てている。外陣の梁間は二間で、内陣は三間四方、その左右一間にそれぞれ脇陣を、後ろ一間に後陣を設けている。天井は全体が格子状の小組格天井を支輪と呼ばれる弧状の曲材で持ち上げた、格の高い折上天井であり、内陣はさらに一段、高く作られている。中央には須弥段を据え、本尊を納める厨子を置いている。厨子の左右には持国天像、多聞天像および十二神将像を安置しており、また外陣にも大日如来坐像と阿弥陀如来坐像を祀っている。これらの仏像および厨子は、いずれも重要文化財に指定されている。




純和様の様式を採る、霊山寺三重塔
初層内部には色鮮やかな壁画が残る

 本堂の他にも、霊山寺には古い建造物が複数残されている。本堂の斜め前には、室町時代、1393年から1466年頃に建造された、一間四方の小規模な袴腰付き鐘楼(重要文化財)が建っている。吊るされている銅鐘は、江戸時代初期、寛永21年(1644)に作られたもので、鐘楼の附けたりとしてこれもまた重要文化財である。本堂より谷を隔てた向かいには、室町前期の文和5年(1356年)建立の三重塔がそびえて立つ。その初層内部の来迎壁には、非常に状態の良い極彩色の壁画が、色鮮やかに残されているという。また、本堂の裏手には、霊山寺の鎮守社であった十六所神社の社殿が三棟残されている。これらは室町時代、至徳元年(1384年)頃のもので、三棟共に重要文化財である。

2009年12月訪問




【アクセス】

近鉄奈良線「富雄駅」より奈良交通バス「若草台行き」で約10分、「霊山寺前バス停」下車すぐ。

近鉄奈良線「富雄駅」より徒歩約40分。

【拝観情報】

拝観料500円(薔薇のシーズン5〜6月、10〜11月は600円)。
拝観時間は9時〜16時。

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