薬師寺東塔、薬師寺東院堂

―薬師寺東塔―
やくしじとうとう
国宝 1951年指定

―薬師寺東院堂―
やくしじとういんどう
国宝 1961年指定

奈良県奈良市


 言わずと知れた、奈良は南都の平城京。その大内裏である平城宮から南に向かい、メインロードの朱雀大路が伸びている。その朱雀大路より西の右京地区、現在は西ノ京と称されるその一帯に、興福寺と共に法相宗の大本山を担う、薬師寺の大伽藍が広がっている。金堂の手前左右に東西二基の塔を配し、それらを講堂と中門から伸びる回廊で囲むという、いわゆる薬師寺式の伽藍配置を持つ薬師寺は、火災により度々堂宇が失われ、現在見られる建物の多くは現代に再建されたものである。しかしながら、それらの建物の中でも東塔は、平城京遷都直後に建立された奈良時代初期のものであり、鎌倉時代後期に復興された東院の正堂である東院堂と共々、国宝に指定されている。




薬師寺東院堂より、回廊向こうの東塔を望む

 飛鳥時代の680年、天武天皇(てんむてんのう)が後の持統天皇(じとうてんのう)となる皇后の病気平癒を願って発願した寺院が薬師寺である。当時の薬師寺は畝傍山の東、藤原京の右京八条三坊に建てられていた。しかし、天武天皇存命中には完成せず、その造営は次代の持統天皇、次々代の文武天皇(もんむてんのう)の時代にまで引き継がれ、698年にようやく完成を見たという。その後、平城京への遷都に伴い、薬師寺もまた藤原京から平城京の右京六条二坊へと移される事になった。それが、現在の薬師寺である。なお、藤原京時代の薬師寺からは、かつての伽藍の礎石などが発見されており、本薬師寺跡(もとやくしじあと)として特別史跡に指定されている。




類稀なる意匠を持つ、薬師寺東塔
この塔は2010年秋から2019年にかけて、解体修理が行われる

 薬師寺東塔は、奈良時代初期の天平2年(730年)に建立されたものであり、薬師寺が平城京へ移されたその当初より残る、現存唯一の建造物である。本瓦葺き、三間三重の塔で、総高は34メートル。これは三重塔の中で、最も高いものである。しかしながら、この薬師寺東塔を最も強く特徴付けているのは、やはりその外観だろう。三重塔ながら、各層の下に裳階(もこし)と呼ばれる庇が付いている為、まるで六重塔のように見える。屋根の逓減率(ていげんりつ、下層から上層にかけて小さくなる割合)が大きく、それによりどっしりと安定感があり、かつ変化に富んでリズミカルである。その独特の美しさから東塔は「凍れる音楽」と称され、人々に親しまれてきた。




東塔の軒と組物

 東塔の軒は、垂木が二段に組まれた二重垂木であり、奈良時代の多くの建築がそうであるように、上段の飛擔垂木(ひえんだるき)は角材、下の地垂木(じだるき)は丸材となっている。組物は三手先(みてさき)であり、中備には間斗束(けんとづか)が入れられている。一方、裳階の軒は簡略化されており、垂木は一重で組物も平三斗組と簡素なものだ。東塔の上部に乗る相輪には、楽器や花などを持った天女の透かし彫りが施された、非常に見事な水煙が付属している。なおこの東塔は、藤原京時代のものが移築されたという説と、移転後に新築されたという説がある。現在は新築説が有力であるが、いずれにせよその様式は、藤原京時代のものを踏襲しているという。




鎌倉期を代表する和様建築である、薬師寺東院堂

 東塔より回廊を隔てたその東には、薬師寺のもう一つの国宝建造物、東院堂が存在する。東院堂は、元明天皇の次女である吉備内親王(きびないしんのう)が、母親である元明天皇(げんめいてんのう)の冥福を祈る為に養老年間(717〜724年)に建立した東院の正堂であり、現在のものは鎌倉後期の弘安8年(1285年)に再建された。後の江戸時代の享保18年(1733年)には修理が行われ、南向きから西向きへと改められている。その規模は桁行七間に梁間四間。屋根は一重の入母屋造で、本瓦葺である。一部には大仏様の影響があり、鎌倉時代の特徴が見られるが、全体的には伝統的な和様でまとめられている。なお、本尊の聖観世音菩薩像は白鳳時代のものであり、国宝である。




薬師寺の西、大池より見た薬師寺の夕暮れ

 伽藍の中央に建つ金堂は、享禄元年(1528年)に戦災で失われて以来、長らく仮堂のままであったものを、1976年に東塔と同じ白鳳時代の様式をもって再建されたもので、内部には本尊の薬師三尊像(白鳳時代、国宝)が安置されている。金堂背後の大講堂は2003年の再建で、弥勒三尊像(白鳳時代、重要文化財)が祀られている。東塔と対を成す西塔もまた、享禄元年に失われて以来再建されず、現在のものは1981年の再建である。中門も1984年の再建だが、その前に構えられている南門は室町時代の永正9年(1512年)に建てられたものであり、重要文化財である。薬師寺の大伽藍に対してやや小ぶりな四脚門だが、元々この門は、薬師寺西院の門であった為だ。

2010年04月訪問




【アクセス】

近鉄橿原線「西ノ京駅」から徒歩約3分。

【拝観情報】

拝観料は玄奘三蔵院伽藍公開時が800円、未公開時は500円。
拝観時間は8時〜17時(入場は16時30分まで)。

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