御上神社本殿

―御上神社本殿―
みかみじんじゃほんでん

滋賀県野洲市
国宝 1952年指定


 琵琶湖の南東部にそびえる三上山(みかみやま)は、均整の取れた形状が美しく、近江富士とも称される名山である。その歴史は極めて古く、奈良時代に編纂された古事記にも記述が見られ、また三上山を詠んだ歌も数多い。平安時代中期の武将である藤原秀郷(ふじわらのひでさと)が、三上山の大ムカデを退治したという伝説も語り継がれている。三上山の西麓に位置する御上神社は、その三上山を神体山とする古社である。木々生い茂る鎮守の杜に囲まれた境内には、鎌倉時代後期に整備された各種社殿が建ち並んでいる。その中でも御上神社本殿は、他に見られない特異な様式の社殿であり、また神社建築としても相当に古く、特に貴重なものとして国宝に指定されている。




平安時代の延喜式神名帳にも記されている御上神社
その境内には楼門、拝殿、本殿が一直線上に配されている

 御上神社の祭神は、天照大神(あまてらすおおみかみ)の八尺勾玉より生まれた天津彦根命(あまつひこねのみこと)の子、天之御影命(あめのみかげのみこと)である。天之御影命は鍛冶を司る神であり、孝霊天皇(こうれいてんのう)が在位していた紀元前342年から紀元前215年頃、三上山の山頂の盤座(いわくら)に降臨したとされる。その後、天之御影命の孫である彦伊賀都命(ひこいがつのみこと)が、三上山の山頂で祭祀を執り行ったのが、御上神社の始まりであるという。その後、奈良時代初期の養老2年(718年)に、往時の最大権力者であった藤原不比等(ふじわらのふひと)が、御上神社の遥拝所があった西麓の現在地に社殿を造営し、御上神社が成立した。




非常に似た様式である、御上神社拝殿と本殿

 南に面して立つ御上神社の鳥居をくぐると、背の高い木々に囲まれた参道の奥に、檜皮葺きの重厚な入母屋屋根を持つ楼門が堂々たる構えを見せている。楼門をくぐると、そこには桁行三間、梁間三間の拝殿が建っており、その屋根もまた一重の入母屋造、檜皮葺きである。拝殿の裏手には社殿が三棟、横一列に並んで建てられており、そのうち中央の社殿が御上神社本殿、左側が摂社である若宮神社本殿、右側が同じく摂社の三宮神社本殿となっている。これらの建造物はいずれも文永12年(1275年)から元弘2年(1332年)にかけて、鎌倉時代後期に整備されたものであり、そのうち御上神社本殿が国宝、それ以外も楼門、拝殿、若宮神社本殿が重要文化財に指定されている。




神社と仏堂、御殿建築の特徴を併せ持つ、御上神社本殿

 御上神社本殿は拝殿同様、桁行三間、梁間三間の規模であり、屋根もまた檜皮葺きの一重入母屋造で、正面には一間の向拝が付けられている。その建築様式は純粋な神社建築ではなく、寺院の仏堂や、御殿建築の様式も取り入られている独自のもので、御上造と呼ばれている。屋根の上には神社建築の証である千木、鰹木が乗っているものの、白漆喰の壁や連子窓など、仏堂的要素が特に強い。その正確な建立年こそ不明であるが、建築手法より鎌倉時代に建立されたと考えられている。また、建物の周囲に回された縁の礎石に、南北朝時代である建武4年(1337年)の銘が見られる事から、縁や向拝の部分はこの時代に改造されたものであると見られる。




簡素ながら、洗練された意匠である

 御上神社本殿は飾り気が少なく、組物も隅柱の上にのみ舟肘木(ふなひじき)を、向拝の柱上に連三斗(つれみつど)を乗せ、その中備として蟇股を入れる程度である。建具は正面および左側面に板戸を入れている。内部は一間四方の内陣と、その周囲を巡る一間の外陣に分かれており、内陣には厨子が安置されている。なお、この厨子は室町時代に作られたとされるもので、本殿の附けたりとして国宝指定を受けている。内陣の天井は小組格天井(こぐみごうてんじょう)となっており、外陣は天井を張らずに垂木を見せる化粧屋根裏である。また、後部一間には武器庫として用いられていた通りが設けられているなど、内部もまた仏堂建築の特色が強く表れている。




御上神社本殿の左に建つ、流造の若宮神社本殿

 このように、御上神社本殿の意匠は比較的シンプルなものでありながら、屋根の反りや白壁などが美しく、建物全体のバランスも非常に優れており、良くまとまった日本らしい建造物と言えるだろう。なお、本殿手前に建つ拝殿は、その三間四方という規模や入母屋造である点など、本殿と非常に良く似た様式を採っている。それよりこの拝殿は、かつて本殿であったものを、後に改造を施して、拝殿として再利用したものである可能性が高い。また、御上神社本殿が御上造という極めて特異な神社建築であるのに対し、その横に鎮座する若宮神社本殿と三宮神社本殿は、神社建築としてはスタンダードな一間社の流造(ながれづくり)となっている。

2010年05月訪問




【アクセス】

JR東海道線「野洲駅」より徒歩約45分。
JR東海道線「草津駅」よりレンタサイクルで約45分。
JR琵琶湖線「野洲駅」より滋賀交通バス「北山センター前行き」で10分、「御上神社前バス停」下車すぐ。

【拝観情報】

境内自由。

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