賀茂別雷神社本殿、権殿

―賀茂別雷神社本殿、権殿―
かもわけいかずちじんじゃほんでん、ごんでん

京都府京都市
国宝 1953年指定


 賀茂川と高野川の合流点に位置する下鴨神社こと賀茂御祖神社(かもみおやじんじゃ)。そこより賀茂川を遡った上流域、神山(こうやま)の麓に鎮座するのが賀茂別雷神社(かもわけいかずちじんじゃ)、通称上賀茂神社である。賀茂別雷神社は、賀茂御祖神社と共に賀茂社と呼ばれ、最盛期には広大なる社領を有し、伊勢神宮に次ぐ社格をもって、人々に信奉されてきた古社である。今でこそ、社領は境内主要部分と御神体である神山一帯のみに縮小されてしまったが、それでもなおその規模は大きく、境内には数多くの社殿が残されている。そのうち最深部に祀られている本殿と権殿の二棟が国宝に指定され、またそれらを取り囲む34棟の社殿群が重要文化財に指定されている。




賀茂別雷神社一の鳥居より見る参道
糺の森が茂る賀茂御祖神社に対し、明るい芝生の馬場が印象的だ

 社伝によると、賀茂別雷神社の歴史は神武天皇の御世、すなわち神話の時代、賀茂別雷命(かもわけいかづちのみこと)が神山に降臨した事により始まったという。その後、天武天皇の御世にあたる飛鳥時代の678年に、現在の上賀茂神社の基となる社殿が造営された。奈良時代が終わり、都が平安京へ遷都されると、賀茂別雷神社は都の鎮守社として国を挙げて祀られるようになり、朝廷との関係もより深いものとなる。天平勝宝2年(750年)頃には、賀茂別雷神社から賀茂御祖神社が分社して独立し、二社共に貴族の崇敬を集めた。また弘仁元年(810年)には、伊勢神宮の斎宮にならって斎院(未婚の皇族女性が巫女として神に仕える制度)が置かれ、それは鎌倉時代にまで続いて行く。




玉依日売が丹塗矢を拾ったとされる楢(なら)の小川

 そもそも賀茂別雷神社は、京都盆地北部の有力豪族であった、賀茂氏の氏神を祀る神社であり、その祭神である賀茂別雷命もまた、賀茂氏の祖神とされている。山城国風土記によると、賀茂氏の始祖、賀茂建角身命(かもたけつぬみのみこと)の娘である玉依日売(たまよりひめ)が小川で遊んでいたところ、川上より丹塗の矢が流れてきた。それを持ち帰り、寝床の側に置いたところ、懐妊して賀茂別雷命が生まれたという。その丹塗矢は火雷神(ほのいかつちのかみ)であったのだ。なお、賀茂別雷命の母親である玉依日売(たまよりひめ)、および玉依日売の父親であり賀茂別雷命の祖父にあたる賀茂建角身命(かもたけつぬみのみこと)は、賀茂御祖神社の祭神として祀られている。




この四脚中門の奥に本殿と権殿が鎮座している
四脚中門内部の撮影は一切が禁じられている

 賀茂別雷命が祀られている賀茂別雷神社本殿は、江戸末期の文久3年(1863年)に再建されたものである。国宝建造物としては比較的新しい建物だが、これは平安時代中期の長元9年(1036年)、朝廷により式年遷宮が定められ、以来21年ごとに社殿を建て替えてきた為である。賀茂御祖神社でも同様の定めがあり、その本殿もまた、同じく文久3年(1863年)に造替されたものだ。明治時代に入ると文化財の概念が生まれ、以降は屋根の葺き替えや補修に代えて式年遷宮とするようになった。本殿の西隣には、本殿と同規模、同様式の権殿が存在するが、これは式年遷宮で本殿を建て替える時などに、神を一時的に遷しておく為の仮殿であり、これもまた本殿と同時期に造替されたものだ。




二の鳥居をくぐった所にある細殿(拝殿)
前に盛られた立砂は、賀茂別雷命が降りた神山を模している

 賀茂別雷神社本殿と権殿の建築様式は、三間社(さんげんしゃ、桁行が三間の神社建築)の流造(ながれづくり、平入の屋根前方が庇のように長く延びた神社建築)、屋根は檜皮で葺かれている。これは、賀茂御祖神社に鎮座する二棟の本殿とほぼ同じ様式である。ただし、賀茂御祖神社の本殿は高欄と階段の部分が朱漆で塗られているのに対し、賀茂別雷神社の本殿は全ての部材が何も塗らず、素木のままであるという違いがある。また、どちらの神社の本殿も、正面三間のうち中央間に木扉が設けられ、その左右両脇間は羽目板の板壁であるが、賀茂別雷神社の本殿と権殿は、左間の羽目板に金色の獅子が、右間の羽目板には銀色の狛犬が、それぞれ色鮮やかに描かれている。




摂社の新宮神社へと続く石段

 賀茂別雷神社の本殿、権殿、およびそれらに付属する取合廊下は、前述の通り文久3年(1863年)の造替時に再建されたものであるが、それら以外、本殿の手前に構えられている四脚中門や渡廊下、それらへと続く楼門や、その脇から伸びる回廊、二の鳥居付近に建つ細殿や橋殿などの各種社殿群、加えて同じ境内に鎮座する新宮神社、片岡神社などの摂社は、いずれも本殿より早い時期である江戸時代前期、寛永5年(1628年)年頃に建てられたものであり、そのほとんどが重要文化財に指定されている。上賀茂神社の中枢域に、複雑かつ密集して配されているこれらの建造物群は、上賀茂神社ならではの清浄な神域景観を見事に作り出している。

2007年02月訪問
2010年09月再訪問




【アクセス】

「京都駅」より京都市バス4系統で約45分、「上賀茂神社前バス停」下車、徒歩約5分。
「京都駅」より京都市バス快速9系統で約35分、「上賀茂御薗橋バス停」下車、徒歩約5分。
いずれも渋滞の可能性がある為、余裕を持った方が良い。

【拝観情報】

境内自由、拝観時間8時30分〜16時(土日祝日は8時30分〜16時30分)。

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