―広隆寺桂宮院本堂―
こうりゅうじけいきゅういんほんどう
京都府京都市 国宝 1953年指定 京都は太秦(うずまさ)広隆寺。それは古代の渡来系豪族、秦(はた)氏の氏寺として創建された、京都最古の仏教寺院である。広隆寺境内の西の端、細い路地を進んだその先に、竹林に囲まれた桂宮院と呼ばれる一角がある。竹葉擦れの音の中、四方を塀によって仕切られた敷地の中央に、小ぶりながらも美しい、鎌倉時代の八角円堂がたたずんでいる。それこそが聖徳太子を祀る、桂宮院の本堂である。室町時代における応仁の乱など、度々の戦火によって焼き払われてきた歴史を持つ洛内において、鎌倉時代前期にまで遡る純和様の建造物は非常に貴重である。また、ただでさえ現存数の少ない八角円堂という事も相まって、1953年に国宝建造物の指定を受けた。 広隆寺は推古天皇30年(622年)、秦河勝(はたのかわかつ)によって開かれたと伝わっている。なお、創建時の寺名は蜂岡寺(はちおかでら)であった。山背(やましろ)国の葛野(かどの)郡、現在の右京区太秦の一帯を治めていた秦氏は、朝鮮半島から渡ってきた渡来人である。土木や養蚕、織物などの技術に優れ、特に河勝は聖徳太子に側近として仕えるなど、朝廷に重用されていた。有していた資産も膨大で、平安京遷都に伴う都の造営にも多大に貢献したという。広隆寺は弘仁9年(818年)、および久安6年(1150年)の火災で伽藍が焼失しており、創建時の建物は残されていない。しかしながら諸仏像は僧侶や人々によって守られ、受け継がれ、今にも数多くが残されている。 創建時の広隆寺は弥勒菩薩を本尊としていた。平安時代になると薬師如来を本尊とするようになり、また聖徳太子を信仰の対象とする、太子信仰の寺としても栄えていた。広隆寺は聖徳太子との関係が極めて強く、創建時の仏像も聖徳太子から譲り受けたものであるとされ、聖徳太子の伝説を記した最古の書物「上宮聖徳法王帝説」にも、聖徳太子が創建に関わった七大寺の一つとして蜂岡寺が挙げられている。桂宮院もまた聖徳太子を祀る為に建てられたもので、広隆寺の奥の院という位置付けである。建長3年(1251年)に中観上人澄禅(ちょうぜん)が桂宮院を建立すべく浄財を募った勧進帳が残されている事から、桂宮院本堂が建立されたのもその頃であると考えられている。 桂宮院本堂は八角形の平面を持つ仏堂、いわゆる八角円堂である。現存する八角円堂は数少なく、国宝に指定されているものでは桂宮院本堂の他、法隆寺東院夢殿、法隆寺西円堂、興福寺北円堂、榮山寺八角堂の全5棟。桂宮院本堂以外はすべて奈良の古寺である。なお、この桂宮院本堂は、同じく聖徳太子を祀る法隆寺東院の夢殿(ゆめどの)を参考にして建てられたと考えられている。桂宮院本堂の内部には厨子が据えられており、そこには聖徳太子半跏像が安置されていた。この厨子は建物と同時期に作られたものであり、本堂の附けたりとして国宝指定を受けている。聖徳太子半跏像もまた当時のもので、重要文化財に指定されているが、こちらは現在、霊宝殿に移されている。 桂宮院本堂は、その一辺が7尺(約2.12メートル)と、国宝八角円堂の中では最も規模が小さいものである。屋根は檜皮葺の宝形造。緩い勾配で軒がやや沿り、頂点には露盤と宝珠が乗せられている。正面は東側で、その面を含む東西南北の四面に扉が設けられており、それ以外の面には盲連子(めくられんじ)がはめられている。盲連子とは、格子間の隙間を無くし、光を入れず、風のみを通すようにした連子窓の事であるが、ここでは窓にはめた板に縦の刻みを入れ、連子窓のように見せているという。建物の周囲には縁が巡らされており、その床下には白漆喰で傾斜の緩やかな亀腹が築かれている。内部は柱を設けず、外側から中央に向けて天井が高くなる構造であるという。 広隆寺に残る桂宮院本堂以外の歴史的建造物として、講堂がある。桁行五間、梁間四間、本瓦で葺かれた一重の寄棟造屋根の建物で、平安時代の後期にあたる永万元年(1165年)の建造と、戦火の多かった京都市内では古い部類の建物であるが、後世による改造が著しく、重要文化財の指定である。他にも、元禄15年(1702年)の建立である楼門や、享保15年(1730年)の建立である上宮王院が現存している。また、境内の奥に建つ霊宝殿には、17躯の国宝仏像を始めとした数多くの宝物が安置されている。そのうち白鳳年間に作られた弥勒菩薩半跏像、通称宝冠弥勒は、その繊細で美しい思索の表情ゆえ、日本を代表する仏像として世界にもその名を知られている程の傑作である。 2009年04月訪問
【アクセス】
京福電鉄「太秦広隆寺駅」より徒歩約5分。 「京都駅」より京都バス71系統、72系統、73系統、75系統で約30分、「太秦広隆寺前バス停」下車徒歩約5分。 【拝観情報】
桂宮院本堂は4〜5月、10〜11月の日曜祝日のみ拝観可能、拝観料200円。 ・榮山寺八角堂(国宝建造物) ・興福寺北円堂(国宝建造物) Tweet |