東照宮東西廻廊

―東照宮東西廻廊―
とうしょうぐうとうざいかいろう

栃木県日光市
国宝 1951年指定


 日光山地の入口に位置する日光山は、かつては神仏習合の霊場であった。明治初頭の神仏分離令を受け、現在は「輪王寺」「二荒山神社」そして「東照宮」の二社一寺に分けられている。そのうち表参道の正面に鎮座する「東照宮」は、江戸幕府の初代将軍である徳川家康を「東照大権現(とうしょうだいごんげん)」として祀る神社である。その境内には寛永13年(1636年)に第三代将軍の家光が幕府の威信をかけて築き上げた豪奢な社殿群が建ち並んでおり、当時における美術、工芸、建築の到達点を示す傑作として名高い。そのうち陽明門と共に本社を区画しているのが「東西廻廊」だ。この二棟の廻廊もまた彫刻を始めとする装飾が施されており、他の主要建造物と同じく国宝に指定されている。




東西廻廊はいずれも朱塗りであり、内法長押や頭貫、組物などに彩色を施す

 男体山(なんたいさん)、女峰山(にょほうさん)、太郎山(たろうさん)などが聳える日光の山々は、奈良時代より霊峰として崇められてきた山岳信仰の聖地である。その主峰である男体山は古くは「二荒山(ふたらさん)」と呼ばれ、これは仏教における観音菩薩がいる浄土「補陀落山(ふだらくせん)」を由来とする。また二荒は音読みで「にこう」とも読まれ、それに「日光」という漢字が充てられ地名として定着した。日光山は関東地方における一大霊場として栄え、鎌倉に幕府を開いた源頼朝もまた日光に寄進するなど坂東武士の崇敬を集めていった。しかし天正18年(1590年)には豊臣秀吉の小田原攻めにおいて北条方に味方したことで寺領を没収され一時期衰退する。




巨大な彫刻によって装飾された東廻廊の南側正面

 天下統一を果たした徳川家康は源氏の末裔を自称しており、また幼い頃より鎌倉幕府の歴史書である『吾妻鏡』を愛読し、頼朝を信奉していたとされる。その影響からか、家康は頼朝が帰依した日光山を再興すべく、慶長18年(1613年)に側近の高僧「天海」を日光山の本坊である光明院の貫主(座主)に据え、再び一大聖地として繁栄させた。元和2年(1616年)に死去した家康は「日光山に小堂を建てて勧請し、神として祀ること。そして八州(関八州は関東地方のことだが、ここでは日本全土の意)の鎮守となろう」と遺言を残したことで、翌年の元和3年(1617年)に第二代将軍の秀忠が日光山に東照宮を創建し、その後に第三代将軍の家光が現在の荘厳華麗な社殿群に建て替えた。




東廻廊の潜門には軒唐破風を付けて格式を高めている

 陽明門の左右から伸びる廻廊のうち、西廻廊は三十六間、東廻廊は五十四間に渡って続いている。ただし東廻廊の間数は、廻廊から社殿の石の間へと続く「御供廊下(御供所および同廻廊)」を含むものであり、また潜門が附けたり指定されている。なお創建当初は社殿の背後にも北廻廊が存在していたが、正保三年(1646年)に起きた奥羽地震により背面の石垣が崩れたため取り払われ、現在は東西廻廊でコの字状に社殿を囲んでいる。いずれも廻廊幅は一間で床板張り、屋根は黒漆塗の銅瓦で葺かれており、丸柱や壁板、化粧屋根裏などは朱色の漆塗で統一されている。ただし御供廊下だけは角柱であり、軸部は黒漆塗で上部は極彩色で飾られるなど、より豪華な意匠となっている。




西廻廊の南側正面に見られる大型彫刻

 廻廊の内側は吹放ちとし、外側は鍍金の錺(かざり)金具で縁取った黒漆塗の連子窓(れんじまど)を入れている。柱上の組物は出三斗(でみつど)であり、中備の蟇股(かえるまた)には動物や霊獣、花、鳥、果物など様々なモチーフの彫刻が施されている。また陽明門に接している南側正面には、東側十六間、西側九間に渡って狩野理右衛門の下絵による極彩色の大型彫刻が連なっており圧巻だ。欄間には雲、胴羽目(どうはめ)には牡丹や松竹梅に孔雀や鷲などを配した花鳥動物、腰羽目(こしはめ)は鴨や水鳥に菖蒲などの植物を組み合わせて彫られている。いずれも丸彫風の透彫であり、最大のものは横2.3メートル、縦1メートルの一枚板が使用されている。




左甚五郎が手掛けたと伝わる「眠り猫」

 東廻廊の南東部には潜門が設けられており、そのすぐ先には家康の墓所である奥社への入口である「坂下門」(重要文化財)が構えられている。潜門上部の蟇股には日光山の彫刻として最も著名な「眠り猫」を見ることができる。これは江戸時代の前期に活躍した彫刻の名手として知られる「左甚五郎(ひだりじんごろう)」が手掛けたものと伝わっているが、左甚五郎は半ば伝説的な人物であり実在したかは定かではない。また眠り猫の裏側には、竹林で遊ぶ二羽の雀が彫られている。猫は雀の天敵であり、これは猫が寝ているからこそ雀は戯れることができる、すなわち家康がもたらした争いごとのない泰平の世を表していると解釈することができる。

2006年05月訪問
2011年04月再訪問
2017年09月再訪問
2021年09月再訪問




【アクセス】

・JR日光線「日光駅」または東武鉄道日光線「東武日光駅」から東武バス「中禅寺温泉・湯元温泉方面行き」で約10分、「西参道入口」バス停下車、徒歩約10分。
・JR日光線「日光駅」または東武鉄道日光線「東武日光駅」から徒歩約40分。

【拝観情報】

・拝観料:大人1300円、小中学生450円。
・拝観時間:4月1日〜10月31日は9時〜17時、11月1日〜3月31日は9時〜16時(入場は閉場30分前まで)。

【参考文献】

東照宮東西廻廊 (東廻廊)|国指定文化財等データベース
東照宮東西廻廊 (西廻廊)|国指定文化財等データベース
・講談社MOOK 国宝の旅
とちぎの文化財【東照宮東西廻廊】

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