輪王寺大猷院霊廟

―輪王寺大猷院霊廟―
りんのうじたいゆういんれいびょう

栃木県日光市
国宝 1952年指定


 日光山は古くより二荒山(ふたらさん、男体山の古称)を中心とする日光の山々を信仰の対象としてきた神仏習合の霊場である。明治初頭の神仏分離令により「二荒山神社」「東照宮」「輪王寺」に分けられ、二社一寺の構成となった。日光山の西側に境内を構える「大猷院」は江戸幕府の第三代将軍であった徳川家光の廟所であり、現在は輪王寺に属していて法要が営まれている。家光の墓所へと続く参道沿いには様々な寺院建築が配されているが、それらの中でも大猷院の中心的な存在である「霊廟」は建物の全体に黒漆と金箔を施すなど豪華に装飾されており、江戸幕府の開祖である徳川家康を祀る東照宮の本社社殿にも引けを取らない荘厳華麗な建築であることから国宝に指定されている。




夜叉門(重要文化財)から唐門(重要文化財)越しに大猷院霊廟を望む

 日光山の歴史は、奈良時代の天平神護2年(766年)に下野国芳賀郡高岡(現在の栃木県真岡市南高岡)の僧侶であった勝道(しょうどう)上人が二荒山への登頂を志し、大谷川を渡ったところに紫雲立寺(しうんりゅうじ、現在の四本竜寺)を構えたことに始まるとされる。平安時代には空海や円仁も訪れたと伝わっており、また鎌倉時代には源頼朝の寄進を受けるなど関東鎮守の一大霊場として発展した。その後、豊臣秀吉に背いたことで領地を没収され一時衰退したが、江戸に幕府を開いた徳川家康により再興された。元和2年(1616年)に家康が死去すると、遺言に従い遺体は久能山に埋葬された後に日光山へ改葬され、第二代将軍の秀忠によって家康を東照大権現として祀る東照宮が建立された。




大猷院霊廟は漆塗の上に金箔を張った漆箔で飾られている

 幼少期の家光は体が弱く、おとなしい性格で吃音があったとされる。両親である秀忠と江は、家光よりも利発で容姿の良い弟の国松を溺愛し、次期将軍は国松だと噂する家臣もいた。このお家騒動に発展しかねない状況に、祖父である家康は家光こそが次期将軍であると態度で明示した。この事により家光は多大な恩義を感じ、家康を崇敬するに至ったという。秀忠が死去した後の寛永13年(1636年)、家光は家康を祀る東照宮を最高の技術と資金をもって建て替えさせ、荘厳華麗な社殿群を築き上げた。慶安4年(1651年)に家光が死去すると、遺言により家康と同じ日光山に埋葬され、第四代将軍の家綱が承保2年(1653年)に霊廟を建立。後光明天皇から賜った諡号より大猷院と称された。




向拝から拝殿の正面を仰ぎ見る
東照宮より装飾は控え目であるが、より洗練された趣がある

 東照宮の本社社殿が南向きであるのに対し、大猷院の霊廟は北東を向いて建てられている。これは家康の墓所がある山の方角にあたり、死後も家康に仕えたいという、家光の祖父に対する崇敬の念を表すものだといわれている。東照宮の本社社殿と同様、大猷院霊廟もまた彫刻や漆塗、彩色、錺(かざり)金具などによって飾り立てられているが、「東照宮(家康)を凌いではならない」という家光の遺言を受けて東照宮よりは装飾が控え目となっている。東照宮が胡粉の白と金を基調とするのに対し、大猷院は漆の黒と金を基調としている。金箔も東照宮より赤みがかったものを使用するなど全体の彩度を下げており、きらびやかながらも重厚で落ち着いたたたずまいの造作となっている。




本殿と拝殿を繋ぐ相の間

 大猷院霊廟は仏堂であるものの東照宮と同様の社殿建築である「権現造」で築かれており、「本殿」と「拝殿」を「相の間」で繋いだエの字型の棟を持つ構造となっている。いずれも屋根は銅瓦で葺かれており、「本殿」は桁行三間、梁間三間の規模、屋根は一重の入母屋造だが裳階(もこし)と呼ばれる庇が巡らされているため二重のように見える。「相の間」は桁行三間、梁間一間、屋根は両下造(りょうさげづくり、建物に接続するため妻面を持たない切妻造)である。「拝殿」は桁行七間、梁間三間、屋根は入母屋造で正面に千鳥破風を載せ、三間の向拝を付している。本殿、拝殿共に東照宮の本社社殿より一回り小さく築かれており、東照宮よりも立派にならないよう配慮が見られる。




本殿は扇垂木や詰組など禅宗様の特徴が見られる

 本殿は二軒繁垂木を放射状に配した扇垂木となっており、三手先の組物を密に配した詰組、花頭窓を開くなど禅宗様で築かれている。相の間もまた扇垂木や花頭窓など禅宗様の特徴が見られるが、出組の組物を詰組にはせず中備に蟇股を入れている。拝殿は平行垂木であり、組物は二手先、長押を回して蔀戸を吊るなど和様に近い。内部も金箔や彩色によって装飾されており、拝殿の壁には狩野探幽の唐獅子が、格天井には140の龍の画が描かれている。相の間の格天井には鳳凰が描かれ、本殿との境には昇龍と降龍も見られる。本殿の内部には「御宮殿(ごくうでん)」と呼ばれる厨子が安置されており、中には家光像と位牌が祀られている。この厨子や棟札などは大猷院霊廟の附けたりに指定されている。

2006年05月訪問
2011年04月再訪問
2021年09月再訪問




【アクセス】

・JR日光線「日光駅」または東武鉄道日光線「東武日光駅」から東武バス「中禅寺温泉・湯元温泉方面行き」で約10分、「西参道入口」バス停下車、徒歩約10分。
・JR日光線「日光駅」または東武鉄道日光線「東武日光駅」から徒歩約50分。

【拝観情報】

・拝観料:大人550円、小中学生250円。
・拝観時間:4月1日〜10月31日は8時〜17時、11月1日〜3月31日は8時〜16時(入場は閉場30分前まで)。

【参考文献】

輪王寺大猷院霊廟|国指定文化財等データベース
・講談社MOOK 国宝の旅
日光市パンフレット「未来へ届けたい 日光」

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