世界遺産条約とは

 世界遺産条約の正式名称は「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」といい、顕著で普遍的な価値のある(世界的に見て秀でた価値のある)文化財および自然を一つの条約の下で保護しようという画期的な国際条約です。

 1960年代、ダムに沈もうとしていたエジプトのアブ・シンベル神殿を、UNESCO(国際連合教育科学文化機関)の呼びかけにより世界60ヶ国が協力して移築しました。これがきっかけとなり、世界各国の価値ある文化財や自然を保護する体制を作ろうと、1972年のUNESCO総会で採択されたのが世界遺産条約です。日本はこの条約に1992年批准し、現在は16件(2012年7月現在)の世界遺産を有するに至ります。

 世界遺産条約の主たる目的は、世界中の価値ある文化財および自然を保護し、未来へ残すというものです。UNESCOは年に一度「世界遺産委員会」を開き、そこで各国から推薦のあった物件を世界遺産リストに記載するかどうか(世界遺産に登録するかどうか)審議します。この世界遺産リストを通じて様々な国の文化・自然を知ることができ、また自国の文化・自然を世界に知ってもらうことができるという副次的メリットもあります。

 注意すべきなのは、世界遺産リストはUNESCOお墨付きの観光地一覧表ではないということです。どのような価値をもって世界遺産になったのか知らずに訪れて、ガッカリして帰るのではもったいないと思います。世界遺産を訪れる際には、その物件の価値を理解した上で訪問することを強くオススメします。



 世界遺産には以下の種類のものがあります。

文化遺産:歴史的な建築物や町並み、遺跡などの文化財
自然遺産:希少生物や多様な生態系、または特異な地形を有する自然
複合遺産:文化遺産と自然遺産の両方の価値を有するもの

 現在、文化遺産は745件、自然遺産は188件、複合遺産は29件、 総計962件の物件が世界遺産リストに記載されています(2012年7月現在)。



 世界遺産リストに記載された物件は恒久的に保護されなければならず、6年ごとにその保全管理状況を報告し、検査を受ける義務が生じます。その際、このままだとその価値を未来に残すことが難しいと判断された場合には危機遺産リストに記載され、それでも状況が改善されず、価値が失われたと判断された場合には世界遺産リストから抹消される場合もあります。

 第31回世界遺産委員会(2007年)において、オマーンの「アラビアオリックスの保護区」が世界遺産リストからの抹消措置を受けました。1996年に450頭いたアラビアオリックスが65頭にまで激減し、なおかつオマーン政府が資源開発の為に保護区の範囲を90%削減したことが理由です。

 また、第33回世界遺産委員会(2009年)においては、ドイツの「ドレスデン・エルベ渓が世界遺産リストから抹消されました。ドレスデンはエルベ川沿いに広がる都市景観(文化的景観)が評価され世界遺産リストに記載されましたが、エルベ川に架橋計画が持ち上がり、UNESCOは都市景観を損ねると警告したにもかかわらず工事が進められた為、このような措置となりました。ただしこちらの場合は、都市景観ではなく建物の価値に焦点を当てて再推薦すれば、再び世界遺産リストに記載されるだろうという救済案が述べられています。