川越市川越

―川越市川越―
かわごえしかわごえ

埼玉県川越市
重要伝統的建造物群保存地区 1999年選定 約7.8ヘクタール


 武蔵野台地の北東端、荒川と入間川の合流地点に位置する川越は、古くより軍事・交通の要衝として重視され、武蔵国入間郡の中心的な役割を担ってきた。江戸時代になると、江戸北方の守りを固める川越藩の城下町としてさらなる発展を遂げ、商家町としての礎を築く。明治維新後も川越は商業の町として繁栄を続け、数多くの豪商を輩出した。現代に入り、首都圏近郊の中核都市に成長した今もなお、川越には往時の商人たちが財力を投じて建てた商家の町家が数多く残されている。特に城下町時代の中心地、高札場が置かれていた「札の辻」の界隈には重厚な蔵造りの商家建築が軒を連ね、関東屈指の町並み景観を今に残している。




蔵造りの商家が建ち並ぶ川越の町並み
屋根に乗る巨大な鬼瓦に目を見張る

 川越という地名は、中世にこの地を治めていた豪族、河越氏に由来する。河越氏は鎌倉幕府の御家人として力を持ち、河越重頼(かわごえしげより)の娘である郷御前(さとごぜん)は源義経の正妻であった。しかしながら、源義経と源頼朝の対立により重頼は嫡男の重房(しげふさ)と共に謀殺され、河越氏は衰退する。その後、室町時代になると扇谷上杉氏の家宰を担っていた太田道灌(おおたどうかん)が河越城を築き、川越の地は武蔵国の中心地として繁栄した。天正18年(1590年)に徳川家康が江戸へと移封されると川越藩を立藩。徳川家は江戸の防衛拠点として川越藩を重視し、初代藩主の酒井重忠(さかいしげただ)をはじめ有力な譜代大名を歴代藩主に置いていた。




主家も土蔵も厚く漆喰が塗り篭められ、重厚な面持ちだ
壁や塀などに赤煉瓦が用いられている家も多い

 川越藩歴代藩主のうち、寛永16年(1639年)に藩主となった幕府老中、松平信綱(まつだいらのぶつな)の功績は特に大きい。信綱は城下町を整備し、玉川上水、野火止用水を開削して新田開発を進めたほか、江戸と川越を結ぶ川越街道を改修し、新河岸川を開削して舟運による江戸との物流を活性化させた。川越藩領で栽培されたサツマイモや狭山茶は舟で江戸へと運ばれ、その帰りに江戸の最新文化を川越へと持ち帰ったのだ。川越には江戸の文化が根付き、いつしか川越は「小江戸」と称されるようになった。毎年10月に行われる「川越氷川祭の山車行事」は、現在の東京では失われた江戸天下祭の名残りを残す貴重な祭りであり、国の重要無形民俗文化財に指定されている。




川越大火に耐えた、大沢家住宅(重要文化財)

 川越に残る重厚な蔵造りの町並みは、そのほとんどが明治以降に築かれたものである。明治26年(1893年)に起きた川越大火により、川越の町並みはその3分の1以上が灰燼に帰した。そのような惨状の中、蔵造りの商家だけは燃えずに残っていたのである。町の再建にあたり、川越商人たちは蔵造りの持つ強い耐火性に着目し、こぞって蔵造りの商家を建てるようになった。「札の辻」の程近くに位置する「大沢家住宅」は、川越大火を生き残った寛政4年(1792年)建造の蔵造り商家である。その土壁は30cmもの厚さがあり、防火扉まで備わっている。また二階の窓にはめられている格子も木製ではなく土製であるなど、徹底した防火構造の様式を目にする事ができる。




川越の町並みには洋風建築も散見される

 また川越には大正時代から昭和初期にかけての洋風建築も見られ、瀟洒なアクセントを添えている。白い外壁と緑の屋根が目を引く「埼玉りそな銀行川越支店」は、川越の豪商らによる働きかけで創設された第八十五国立銀行(埼玉銀行、埼玉りそな銀行の前身)の本店として大正7年(1918年)に建てられたもので、丸の内赤レンガオフィス街(現存せず)を手掛けた保岡勝也(やすおかかつや)の設計である。またイオニア式の柱列やレリーフが見事な「旧山吉デパート」は、昭和11年(1936年)に建てられた川越初のデパートである。こちらもまた保岡勝也の設計によるもので、これらの二棟は「旧山崎家別邸」「川越貯蓄銀行本店(現存せず)」と共に、川越四部作と呼ばれている。




川越の人々に時刻を知らせる「時の鐘」

 町並みの中程には、川越のシンボルである「時の鐘」がたたずんでいる。地元の人々からは「鐘撞堂」と呼ばれ親しまれているこの鐘楼は、江戸時代前期の寛永年間(1624〜1644年)に川越藩第二代藩主の酒井忠勝(さかいただかつ)が創建したとされる。現在のものは川越大火の翌年、明治27年(1893年)に再建されたものだ。高さ約16メートルの櫓の上には鐘が据えられており、かつては鐘撞き守が決まった時間に鐘を撞いて時刻を知らせていた。現在は機械式となったものの、一日四回(午前6時、正午、午後3時、午後6時)に昔と変わらぬ鐘の音を川越の町並みに響かせている。この「川越の時の鐘」は、平成8年に環境省の「日本の音風景100選」に選定された。

2006年10月訪問
2008年09月再訪問
2008年11月再訪問




【アクセス】

西武鉄道新宿線「本川越駅」より徒歩約10分。
JR川越線、東武鉄道東上本線「川越駅」より徒歩約15分。

【拝観情報】

町並み散策自由(ただし、住民の迷惑にならないように)。

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