佐渡市宿根木

―佐渡市宿根木―
さどししゅくねぎ

新潟県佐渡市
重要伝統的建造物群保存地区 1991年選定 約28.5ヘクタール


 佐渡島の南端部、約8kmに渡って続く小木海岸。荒々しい海蝕崖や奇岩が織り成すその光景は見事なもので、「南仙峡」や「沢崎」といった名所も多く、国の天然記念物および名勝に指定されている。漁船が入れない岩礁でサザエやアワビなどを採る「たらい舟」も有名だ。そのような険しい地形が続く小木海岸の中ほど、入り江の奥に存在するのが宿根木集落である。宿根木は中世の頃より港町として知られ、江戸時代後期から明治時代前期にかけては北前船に関する生業で大いに栄えた。そこには現在もなお、往時の船大工によって建てられた縦板張りの家屋が100棟以上、谷間のわずかな土地に密集して建ち並んでおり、極めてユニークな集落景観を今に残している。




石塚という苗字の「石」を透かし彫りにした軒下飾り

 宿根木の始まりは13世紀の中頃、廻船業を営む人々が移住してきたことによる。当時より小木半島の要港とされ、佐渡の地頭を担う本間氏により出城も置かれていた。江戸時代に入り、大坂から下関を経て北陸・東北へと至る西廻り航路が開かれると、宿根木の東に位置する小木港がその寄港地となる。宿根木には千石船の船主や船員、船大工など廻船業に関する人々が集まり、北前船産業の基地として繁栄した。しかし明治時代の中頃になると、鉄道など陸上交通網の整備が進み、北前船は衰退。宿根木の人々もまた出稼ぎや農林漁業への転向を余儀なくされる。しかしその集落は大きく更新されることなく現在まで残り続け、廻船業が盛んであった当時の町並みを今に伝えている。




三角形の平面を持つ「三角家」
当時の船大工の技術力を今に知らしめている

 土地の狭い宿根木では庭や塀を持つ家が少なく、総二階建ての主屋や納屋を敷地いっぱいに建てるのが基本である。いずれも限られた土地を最大限に利用して建てられており、三角形など独特な平面を持つ家も存在する。外観はこげ茶色の縦板張りで統一されており、用いられている板や釘は船材からのリサイクルだ。屋根は木羽(こば)と呼ばれる薄く割った木の板を敷き、石で押さえた石置木羽葺屋根が伝統である。しかし木羽は2〜3年で差し替える必要があることから、その手間をなくすために昭和30年頃より桟瓦葺きの普及が進んだ。また主屋と共に土蔵を持つ家も多いが、それらの土蔵は漆喰を潮風から守るため覆屋の中にあり、一見すると普通の家屋のようである。




重厚な構えとツヤを見せる、「清九朗(せいくろう)」のオマエ

 宿根木には七軒の船主の家が存在する。いずれも外観こそ簡素で一般の家屋と大差がないものの、その内部は良材をふんだんに用い、漆や弁柄、柿渋などを塗った、大変に豪壮なものとなっている。「清九朗」という屋号を持つ元船主の家は弘化3年(1846年)から安政5年(1858年)頃に建てられたもので、その主屋は入口から土間、オマエ(居間)、ナンド(寝室)を配す、「短冊後ナンド型」と呼ばれる形式である。土間には内井戸を備え、主屋の背後には崖をくり抜いて作られた室も存在する。船大工の家であった「金子屋」は、より古い弘化3年(1846年)以前のものだ。こちらは土間の右手にナンドを配し、その後ろにオマエを持つ「平入り前ナンド型」と呼ばれる形式だ。




擦り減った石畳が印象的な「世捨小路(よすてこうじ)」

 集落の南側には、今もなお昔ながらの石畳が残る「世捨小路」と呼ばれる路地がある。その奇妙な名前の由来は定かではないが、浜と山とを繋ぐ集落内の主要通りであり、また集落の奥に位置する称光寺や白山神社へ向かう際にも通る道筋であることから、称光寺で葬式を終えて出棺した死者が、最後にこの小路を通って村との別れを告げるという説話がある。またこの路地沿いには、蘭学者であった柴田収蔵(しばたしゅうぞう)の生家も存在する。収蔵は江戸時代後期の文政3年(1820年)に宿根木で生まれ、江戸幕府の藩書調絵図調出役を担い、嘉永5年(1852年)には「新訂坤輿略全図(しんていこんよりゃくぜんず)」という楕円形世界地図を作成した人物だ。




集落前の岩礁には、所々に「シロボウズ」が立つ

 集落の南に広がる「大浜」は公共的な広場としての機能を持ち、その用途は船着き場としてのみならず、作物の乾燥場や造船所などとしても用いられていた。大浜の左右から突き出す岩礁には、「シロボウズ」と呼ばれる白い御影石製の船繋ぎ石が7基残されている。安永5年(1776年)年頃に立てられたものだが、その後の享和2年(1802年)に起きた小木地震により小木海岸が1メートルほど隆起し、千石船を繋留することはできなくなってしまった。シロボウズの他にも、一枚岩の石橋や石鳥居など、宿根木の集落内には数多くの石造物をが残されている。その石材は、積み荷を下ろした千石船のバランスを取るバラストとして積んで帰ったもので、瀬戸内海産の御影石が多い。

2014年05月訪問




【アクセス】

両津港より新潟交通佐渡バス「南線」で約40分、「真野新町バス停」下車、
真野新町より新潟交通佐渡バス「小木線」で約50分、「小木港バス停」下車、
小木港より新潟交通佐渡バス「宿根木線(1日4〜5本)」で約15分、
「宿根木バス停」下車すぐ。

【拝観情報】

町並み散策自由(ただし、住民の迷惑にならないように)。

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