加曽利貝塚

―加曽利貝塚―
かそりかいづか

千葉県千葉市
特別史跡 2017年指定


 数多くの縄文遺跡が分布する東京湾沿岸地域。そのうち北東部に位置する千葉市付近には魚貝類の豊富な干潟が広がる遠浅の海が形成されており、日本有数の貝塚密集地帯として知られている。その中でも千葉市内を流れる都川の支流のひとつ、坂月川沿いの舌状台地東端に存在するのが加曽利貝塚だ。縄文時代中期および後期の貝塚を中心とする集落遺跡であり、明治時代から現在に至るまで数多くの学者によって発掘や研究がなされてきた。日本に数ある貝塚の中でも最大級かつ遺存状態が極めて良好であり、また出土した土器は編年の指標とされるなど、日本考古学史上極めて重要な縄文遺跡であることから、2017年に国の特別史跡に指定された。




南貝塚を北東から望む
左手前から右奥にかけて、やや盛り上がっている部分が貝塚だ

 加曽利貝塚の存在が知られるようになったのは明治20年(1887年)、畑から貝殻が出ることを知った上田英吉によって学会誌に発表されたことによる。大正13年(1926年)の発掘調査では出土地点と層位による土器の違いが確認され、土器から年代を測る研究が始められた。これが日本における近代的な考古学の第一歩とされる。戦後には開発の危機にさらされ南貝塚の一部が破壊されたものの、それを契機として遺跡保護運動が活発化。昭和39年(1964年)には北貝塚を公園として整備することを千葉市が決定し、また昭和46年(1971年)には北貝塚が国の史跡に指定された。その後の昭和52年(1977年)には南貝塚と東傾斜面が追加指定され、これにより遺跡のほぼ全域が保存されることとなった。




北貝塚の貝層断面観覧施設
当時としては画期的な遺構の展示方法であった

 加曽利貝塚に分布する貝層は、縄文時代中期に形成された直径約140mの環状である北貝塚と、縄文時代後期に築かれた直径約190mの馬蹄形である南貝塚の二つから成り、それらが連結して8の字状の様相を呈している。このような形状になったのは、広場を中心として同心円状に竪穴式住居を配した環状集落において、集落の周囲の斜面や使われなくなった住居に貝殻が捨てられていた為だ。加曽利貝塚では実物を現地で見るという発想のもと、周囲の自然環境と共に遺構を保存・展示している。昭和43年(1968年)には貝塚の断面を観察できる見学施設が設けられており、埋蔵文化財の整備・活用に関する先駆的な事例として評価されている。




南貝塚の観覧施設で見られる貝層断面

 日本は酸性土壌であることから骨や歯といった動物遺存体が残りにくいものの、貝塚では貝殻に含まれるカルシウムによって中和される為、遺物が良好な状態で保たれている。食べられたものを調査することで当時の人々による狩猟や採集といった具体的な生活が明らかとなり、また動物相や植物相からは当時の気候や水温といった自然環境を知ることができる。加曽利貝塚の貝層からは50体ものの埋葬遺骨(散乱骨を含めると200体)が出土しており、また同じような範囲からは丁寧に埋葬された犬の骨も発見されている。貝塚はただのゴミ捨て場ではなく、この世において役目を終えたあらゆるものをあの世へと送り、再びこの世に還ってくることを願う、神聖な「物送り」の場であったと考えられる。




北貝塚の東北部で出土した住居跡
穴は柱の跡、白くなっている部分は炉の跡である

 また貝塚の周囲からは、住居や貯蔵穴の跡が数多く発見されている。北貝塚の北東部では住居跡が幾重にも重なり合うように発見されており、人々が何度も住居を建て替えつつ住み続けていたことが分かる。かつて集落は貝塚の内側にのみ存在すると考えられていたが、北貝塚から約200m離れた南東の地点からも縄文時代中期の住居跡がまとまって出土した。また集落から川へと下る東側の中腹からは、直径約19mにも及ぶ縄文時代後期の大型建物跡が発見されており、異形台付土器や翡翠小玉、石棒や土偶などが出土していることから、祭祀の為の建物だと推測されている。加曽利貝塚は縄文時代中期から後期まで、2000年もの長期に渡る集落の変遷を追うことのできる遺跡としても非常に貴重なのだ。




縄文時代中期の標式土器である「加曽利E式土器」

 北貝塚から出土した「加曽利E式土器」および南貝塚から出土した「加曽利B式土器」は、編年の指標となる標式土器として設定されている。縄文時代中期のE式土器は、粗目の土で厚めに作られており焼成はもろい。胴部は逆ハの字状の曲線を描いて口をやや開き、口縁部には紐状の隆帯を巡らして平行文や渦巻文を施して胴部には大粒の縄文が付けられている。一方で縄文時代後期のB式土器は緻密な土で薄手に作られており、固く焼成されている。粗製土器には荒い縄文や条痕文、精製土器には細かい縄文を施しており、表面を磨いているのが特徴だ。土器の他には黒曜石やヒスイ、磨製石斧の石材など、下総台地には存在しない石材の製品が出土しており、広域交易の様相を伺うことができる。

2017年08月訪問




【アクセス】

千葉モノレール「桜木駅」から徒歩約15分。

【拝観情報】

拝観自由。

<加曽利貝塚博物館>
入場料:無料
開館時間:9時〜17時(入場は16時30分まで)
休館日:月曜日、祝日の翌日、12月29日〜1月3日

<野外観覧施設>
開場時間:博物館の開館に合わせて開場

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