正福寺地蔵堂

―正福寺地蔵堂―
しょうふくじじぞうどう

東京都東村山市
国宝 1952年指定


 東京都東村山市。畑と住宅街が入り混じった、閑静な環境にたたずむ臨済宗建長寺派の禅宗寺院、正福寺。その山門から一直線に伸びる参道の正面奥に、室町時代に建てられた立派な仏堂が鎮座している。大きく沿った屋根が特徴的なこの仏堂は、地蔵菩薩を祀る事から地蔵堂、あるいは千体地蔵堂と呼ばれ、東村山やその近隣の人々からの信仰を集め、崇敬されてきた。鎌倉時代に宋より日本に伝わった建築様式である、禅宗様の特徴を余すこと無く今に伝えるこの正福寺地蔵堂は、建築年代が明らかな禅宗様の建築として貴重であり、同じく禅宗様の仏堂で、まるで双子のようにそっくりな鎌倉の円覚寺舎利殿と共に、禅宗様を代表する建築のとして国宝に指定されている。




地蔵堂の裏手に位置する正福寺本堂
随所に北条氏の家紋である「三つ鱗」が掲げられている

 正福寺の創建は鎌倉時代の弘安元年(1278年)。鎌倉幕府の第八代執権であった北条時宗(ほうじょうときむね)、もしくはその父である北条時頼(ほうじょうときより)を開基、南宋出身の僧侶である鎌倉は建長寺の石渓心月(しゃけいしんげつ)を勧請開山として開かれたと伝わるが、残念ながらそれを裏付ける史料は存在しない。寺の縁起によると、時宗が鷹狩をする為にこの地を訪れた際に、病気を患って倒れてしまい、その際に夢枕に立った地蔵菩薩より譲り受けた丸薬を服用したところ、たちどころに病が完治したという。時宗はこの地に飛騨から職人を招き、地蔵堂を中心とする七堂伽藍を造営させた。それが正福寺の始まりであるという。




正福寺の入口に建つ山門
江戸時代の元禄14年(1701年)に建てられた、禅宗様の四脚門だ

 正福寺地蔵堂は、桁行三間、梁間三間の典型的な禅宗様仏堂である。外観では二重の屋根を持つ五間四方の建物のように見えるが、下の屋根は裳階(もこし)と呼ばれる庇であり、建物本体はあくまで上の屋根を支える三間四方の空間なのである。入母屋造の屋根は、建立当初は薄板を重ねて葺く杮(こけら)葺であったものの、江戸時代末期の安政4年(1859年)に茅葺へと改められた。昭和8年から9年にかけて解体修理が行われ、茅葺から元の杮葺に戻されたのだが、その際に尾垂木尻(おだるきじり)の持送り(尾垂木を支える部材)から応永14年(1407年)の墨書が発見され、地蔵堂の建立年代が判明した。建立年代が明らかな禅宗様建築として貴重である。




扇垂木や詰組など、身舎の軒下には禅宗様ならではの特徴が数多く見られる

 その見事な反りを見せる屋根の軒裏は、垂木を放射状に配した禅宗様特有の扇垂木(おうぎたるき)となっている。身舎(もや、建物本体の事)の組物は三手先(みてさき)で、柱間にも組物を設けた詰組(つめぐみ)。裳階の組物は、柱上が出三斗(でみつと)で、柱間が平三斗(ひらみつど)となっている。これらの組物も、三手先の尾垂木が先細りしていてその断面も五角形であるなど、和様のそれとは細部の意匠を異にする。また、飛貫(ひぬき、柱上部を貫く水平材)の下には弓なりに湾曲した弓欄間が巡らされており、正面中央間の建具は桟唐戸(さんからど)。その両隣には花頭口(かとうぐち)が、さらに両端間には花頭窓(かとうまど)が設けられている。




弓欄間や花頭窓もまた禅宗様の特徴だ
花頭窓の裾が直線なのは、禅宗様でも古い時代の意匠である

 地蔵堂の内部もまた、典型的な禅宗様の様相を見せる。床を張らずに土間敷きであり、柱は上下が丸くすぼんだ粽柱(ちまきばしら)を用い、礎石の上に礎盤(そばん)と呼ばれる石材を置いて、その上に立てている。天井は裳階部分が垂木をそのまま見せる化粧屋根裏。身舎は虹梁の上に大瓶束 (たいへいづか)を乗せて二手先の斗栱(ときょう)で持ち上げ、最上部の一間四方を板張りの鏡天井としている。その鏡天井の真下には、背後に来迎壁を立てた須弥檀を置き、本尊の地蔵菩薩像を安置している。なお、この地蔵菩薩像は昭和48年に行われた修理の際に墨書銘が発見されており、文化八年(1811年)に作られたものであることが判明している。




どっしりと、重みのある地蔵堂の側面

 千体地蔵堂という呼称の通り、その堂内には須弥檀に安置されている本尊以外にも、天井に近い長押の上など、おびただしい数の小地蔵菩薩像が至る所に安置されている。これらの小地蔵菩薩像は10cmから30cm程度の大きさのもので、願いのある者はここから一体を持ち帰り、その願いが叶ったらもう一体の小地蔵菩薩像を添えて奉納するというものだ。主に、地蔵信仰が盛んであった江戸時代に奉納されたようで、特に正徳4年(1714年)から享保14年(1729年)にかけての銘を持つものが多いという。その奉納者は東村山はもちろんの事、所沢、国分寺、小金井、武蔵境など、周辺一円に及んでおり、その信仰の広さをうかがわせる。

2006年06月訪問
2011年04月再訪問




【アクセス】

西武鉄道新宿線「東村山駅」より徒歩約10分。

【拝観情報】

境内自由。

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