正倉院正倉

―正倉院正倉―
しょうそういんしょうそう
国宝 1997年指定

奈良県奈良市


 南都奈良に聳える東大寺の大仏殿。その裏手に位置する正倉院には、巨大な校倉造(あぜくらづくり)の倉庫である正倉が建つ。奈良時代に建てられたその正倉には、聖武天皇(しょうむてんのう)ゆかりの美術工芸品、および平安時代中期に東大寺羂索院(けんさくいん)から移された重要な仏具など、極めて多岐に渡る貴重な品々約9000点が収蔵されている。それらは日本で作られた物のみならず、唐やペルシャ、果てはローマやエジプトにまで至る事から、正倉院はシルクロードの東の終点と称される。現在、それらの宝物は鉄筋コンクリート造の東宝庫、西宝庫へと移されているが、この正倉はその建造物単体としても類稀なる価値を持ち、宮内庁所管の建造物でありながら例外的に国宝指定を受けている。




正倉院正門
背後に見える屋根は正倉のものである

 そもそも正倉院という名称は、特定の施設を指す固有名詞ではない。奈良時代や平安時代において、主要な官庁機関や寺院には、必ず重要な物品を納める為の倉庫である正倉が設けられていた。特に規模が大きい寺院の場合には、複数の正倉が置かれる事も珍しくなく、それら正倉が並ぶ一角を正倉院と称したのである。しかしながら、時代と共に各寺院の正倉院は失われていき、結果的に東大寺の正倉院のみが現代に残ったのだ。故に、正倉院という一般名詞は、東大寺の正倉院を表す固有名詞として定着したのである。その東大寺正倉院に残る正倉は、奈良時代の有力寺院における正倉院の様子を今に伝える唯一の例として、極めて重要な建造物なのである。




池越しに正倉を見る

 正倉院の起こりは天平勝宝8年(756年)、聖武天皇の七七忌(49日法要)に、光明皇后(こうみょうこうごう)が天皇ゆかりの品々約650点を東大寺に奉納した事に始まる。それらの品々を納める為の宝蔵として建立されたのが、正倉なのだ。その後も正倉は各時代を通じて厳重な管理がなされ、明治時代に入ると明治政府の管理下に一旦置かた後、宮内庁の所管となった。通常、宮内庁所管の文化財は、国宝などの文化財指定が一切なされないが、この正倉院正倉に限り「古都奈良の文化財」の構成資産の一つとしてユネスコ世界遺産に推薦されるにあたり、例外的に国宝指定が認められた。ただし国宝指定を受けたのはあくまで正倉のみであり、その収蔵品であった宝物類はいまだ未指定のままである。




正倉院正倉をややアップで
左から南倉(なんそう)、中倉(ちゅうそう)、北倉(ほくそう)と三室に分かれている

 高床式の校倉造である正倉院正倉の建築規模は、横幅約33メートルで、奥行き約9.4メートル。床下が約2.7メートルで、総高は約14メートルとなっている。これは、校倉造の建造物において、最大のものだ。屋根は単層の寄棟であり、本瓦葺きである。床下には横10列、奥行き4列の礎石が敷かれ、直径約60センチメートルにもなる巨大な丸柱が乗り、建物を支えている。柱の途中には台輪(だいわ)と呼ばれる水平材が渡され、床を構成している。高床式である為、虫害や鼠害を防ぐ事ができ、またその建物全体が温度や湿度の調節に優れたヒノキで建てられている事、所蔵物は辛櫃(からひつ)入れて保管されていた事などにより、劣化無く古代の宝物が現代へと受け継がれる事ができた。




平安時代から江戸時代までは東大寺が管理されていた南倉

 正倉院正倉は、北倉、中倉、南倉の三室に分かれており、それぞれ内部は二階建ての作りで、東側に入口が設けられている。このうち北倉と南倉は校木(あぜぎ)と呼ばれる断面が三角形の木材を井桁に組んで作られた校倉造であるが、中倉のみ厚い板で壁を張った板倉造となっており、他の二室とは異なる様式となっている。これは元々、北倉と南倉の二棟のみが一つの屋根にて連結されていた、双倉(ならびくら)であった為であり、今の中倉の部分は壁も床も無い吹き放しの構造であった。後の時代に、その吹き放しの部分に壁と床を張り、板倉にして中倉としたのである。なお、この双倉という古代の倉の形式は、現在は法隆寺綱封蔵にて見ることができる。




一方、北倉は古来から朝廷により厳重な管理がなされていた

 正倉院正倉の三室は、収蔵物の種類に応じて使い分けがなされていた。北倉には、光明皇后によって奉納された聖武天皇ゆかりの品々が納められ、南倉には平安時代に羂索院から移された仏具が納められていた。中倉に納められた品々の性質ははっきりしないが、南倉の収蔵物のうち重要なものが移されていたとされ、東大寺の儀式に使用される品々や、古文書などの史料が納められていた。このうち北倉は極めて重要な宝蔵とされ、天皇の勅命によって封じられた勅封蔵として、その開封には天皇の使いである勅使の立会いが義務付けられていたほど、その管理は厳重だった。数々の宝物がその輝きを失わないまま1300年以上も保存されていたのは、この管理方法に拠るところも大きいという。

2010年02月訪問




【アクセス】

近鉄奈良線「近鉄奈良駅」から徒歩約25分。

JR奈良線「奈良駅」から徒歩約35分。

JR奈良線「奈良駅」もしくは近鉄奈良線「近鉄奈良駅」より奈良交通バス「青山住宅」行きで「今小路バス停」下車、徒歩約5分。

【拝観情報】

拝観無料、拝観時間は平日のみ10時〜15時。

【関連記事】

唐招提寺経蔵(国宝建造物)
東大寺大仏殿(国宝建造物)
東大寺南大門(国宝建造物)
東大寺法華堂、東大寺二月堂(国宝建造物)
東大寺開山堂、東大寺鐘楼(国宝建造物)
東大寺転害門、東大寺本坊経庫(国宝建造物)
古都奈良の文化財(世界遺産)