法隆寺綱封蔵、法隆寺食堂

―法隆寺綱封蔵―
ほうりゅうじこうふうぞう
国宝 1967年指定

―法隆寺食堂―
ほうりゅうじじきどう
国宝 1952年指定

奈良県生駒郡斑鳩町


 聖徳太子こと厩戸皇子(うまやどのおうじ)が推古天皇15年(607年)に創建した斑鳩寺(いかるがでら)を前身とし、天智天皇9年(670年)の大火後に再建された法隆寺。その中枢にあたる西院(さいいん)伽藍の東側はかつて寺務を担っていた区域であり、綱封蔵(こうふうぞう)、食堂(じきどう)及び細殿(ほそどの)の三棟が現存する。そのうち「綱封蔵」は寺宝を保管するための倉であり、古代における「双倉(ならびぐら)」の様式を伝える存在として国宝に指定されている。また「食堂」は法会の際に僧侶が食事をする場所であり、その前室にあたる「細殿」と共に「双堂(ならびどう)」の様式を伝えるものとして食堂は国宝に、細殿は重要文化財に指定されている。




「綱封蔵」は二つの倉を一つの屋根で覆った双倉である

 「綱封蔵」は東大寺の正倉院正倉(国宝)と同じく天皇の命により封印する勅封の倉であり、諸寺を統括する役所「僧綱所(そうごうじょ)」が開閉を管理していたことからその名が付いた。天平19年(747年)に成立した『法隆寺伽藍縁起并流記資財帳(以下、資財帳)』によると双倉二口など計七棟の倉が記されており、その大半がこの近くに建っていたと推測されている。現存する綱封蔵は部材の材質や建築技法から平安時代中期の建立であると考えられる。当初は綱封蔵ではなかったものの、12世紀の初頭にそれまでの綱封蔵が破損して倒壊したため宝物を双倉に移したことが『法隆寺別当記』より判明しており、以降はこの双倉が綱封蔵として利用されるようになった。




中央部は壁や床を張らない吹き放ちである
倉は屋根に覆われた中央部に向かって扉を開き、収蔵物を風雨から守っている

 「綱封蔵」は南北棟で建つ高床の倉であり、その規模は桁行九間、梁間三間である。方三間ずつ三区に分けて、南北の二区を倉、中央部を吹き放ちとし、両倉は中央部に向かって扉を開いている。このような形式の双倉は奈良時代の大寺院に築かれていたが、現存するものは正倉院正倉と法隆寺綱封蔵の二例のみである。なお正倉院正倉は中央部にも壁と床を張って一棟三倉としているため、扉はすべて正面に向かって開かれおり、本来の双倉の姿ではない。そのため法隆寺綱封蔵は双倉の姿を完全に留める唯一の例であり、極めて貴重な存在だ。また古代寺院の倉は校倉や板倉とするのが一般的であるが、綱封蔵は土壁であるのも珍しい。




礎石の上に銅張(どうばり)の太い丸柱を立てて高床としている

 「綱封蔵」は葛石(かずらいし、基壇の縁に用いる長方形の石材)を巡らせた低い土壇の上に築かれている。自然石の礎石に、中央付近が膨らみ上下がすぼんだ胴張の太い丸柱を据え、梁方向に頭貫と台輪、桁方向は側面のみに台輪を架けて、その上に角柱を立てて軸部を頭貫で固めている。柱の上には大斗を乗せて通肘木を組み、大梁を架けて舟肘木で桁を受けている。内部は大梁の上に二重の梁を組み、束で棟木を受けて、天井は張らずに化粧屋根裏とする。軒は二軒の繁垂木であり、屋根は一重の寄棟造で本瓦葺だ。また両倉は土壁であるがこれだけだと破られる可能性があるため、内部の壁面下方に厚い横板を落とし込み、盗難の防止と収蔵品の保護を図っている。




「食堂」を東側後方から見る
正面に建つ「細殿」と共に奈良時代における双堂の様式を残す

 「食堂」及び「細殿」は、綱封蔵の北東側に東西棟で並んで建つ。食堂は儀式の一部として多数の僧侶が会食を行う場所であることから広さが必要であり、『資財帳』には現在の大講堂と同規模の食堂が記載されている。現在の食堂は『資財帳』にある政屋(まんどころや、寺務所)の一棟を平安時代初頭に改築し、食堂に転用したと考えられている。鎌倉時代の中頃までは前面に建つ細殿と内部を一続きにした「双堂」として利用されていたが、鎌倉時代の後期に細殿を現在のものに建て替え、食堂もまた戸口や窓の改修を受けて現在の姿に改められた。故に幾時期かの部材が混在しているものの、建物の骨格はおおむね当初のものであり、数少ない奈良時代の建造物として貴重である。




連子窓と扉が連続する「食堂」の正面側
全体的に装飾性は低く、簡素な意匠である

 「食堂」の規模は桁行七間、梁間四間である。円形の礎石に円柱を立て、地覆と頭貫で柱を繋ぎ、組物は大斗肘木で中備は入れない。軒は二軒の繁垂木であり、屋根は一重の切妻造で本瓦葺である。正面の柱間装置は連子窓と扉を交互に開き、背面は中央間のみ扉でそれ以外は土壁、側面はすべて土塀とする。伸びやかな肘木の曲線、円形断面の桁や棟木、内部の単純な扠首組などに奈良時代の特徴が良く表れている。妻面にはやはり同時代の特徴である二重虹梁が見られるが、意匠的な蟇股は使用せずに斗で受けるだけの簡素なものとなっている。途中で使用目的が変更された建物ではあるものの、細殿と共に奈良時代における双堂の様式を今に伝える稀有な存在だ。

2006年05月訪問
2010年04月再訪問
2022年04月再訪問




【アクセス】

・JR関西本線「法隆寺駅」から徒歩約20分。
・JR関西本線「法隆寺駅」から奈良交通バス「法隆寺参道」行きで約10分、「法隆寺参道」バス停下車、徒歩約5分。
・近鉄橿原線「近鉄郡山駅」から奈良交通「法隆寺前」行きバスで約30分、終点下車、徒歩約10分。

【拝観情報】

綱封蔵及び食堂を近くで見るには大宝蔵院への通路から(要チケット)。
・拝観料:中学生以上1500円、小学生750円(西院伽藍、大宝蔵院、東院伽藍を含む)。 ・拝観時間:2月22日〜11月3日は8時〜17時、11月4日〜2月21日は8時〜16時半。
【参考文献】

聖徳宗総本山 法隆寺
法隆寺綱封蔵|国指定文化財等データベース
法隆寺食堂及び細殿|国指定文化財等データベース
・講談社MOOK 国宝の旅

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