拡大登録

 既に世界遺産リストに記載されている物件に、同等の価値を有する構成資産を追加する事を「拡大登録(extension)」もしくは「追加登録」と言います。

 拡大登録の手順は新規登録の手順と同様です。追加登録される物件はあらかじめ暫定リストに記載されている必要があり、また推薦書の提出、専門機関の調査および評価勧告を経て、世界遺産委員会により可否が決定されます。

 日本ではまだ一度も拡大登録が行われていませんが、海外ではたくさんの事例があります。中国では1987年に記載された「北京の故宮博物院」に2004年「瀋陽の瀋陽故宮」を追加、「北京と瀋陽の明・清朝の皇宮群」に改称されました。また「ローマ帝国の国境線」は1987年に記載されたイギリスの「ハドリアヌスの長城」に、2005年ドイツの「リーメス」、2008年イタリアの「アントニヌスの長城」を追加したもので、このように国境を越えた拡大登録の例もあります。

 「インドの山岳鉄道群」は、1999年に記載された「ダージリン・ヒマラヤ鉄道」に2005年「ニルギリ山岳鉄道」を追加し、さらに2008年「カールカー・シムラー鉄道」を追加したものです。インド政府はさらに「マテラン登山鉄道」を追加すべく拡大登録の推薦を行いましたが、ICOMOSは2010年「不記載」を勧告。もうこれ以上の拡大登録しないようにとインド政府に要請しました。それまでに記載された三件で「インドの山岳鉄道」の価値を構成する要素は十分に含まれていると判断されたのです。

 世界遺産リストの記載件数が増え、類似物件の新規記載が難しくなった現在、拡大登録は非常に有用な手段であると言えます。日本の暫定リストに記載されている「金を中心とする佐渡鉱山の遺跡群」は、既記載物件である「石見銀山遺跡とその文化的景観」と世界的に見た価値が酷似しており、新規記載は非常に難しいと思いますが、「石見銀山遺跡〜」の拡大登録として推薦すれば記載の可能性はぐっと上がります(そもそも「佐渡鉱山〜」は「石見銀山遺跡〜」への拡大登録として暫定リスト記載に内定しましたが、石見側の反対により単独記載となりました。拡大登録により「日本の鉱山遺跡群」などと名称が変わり、「石見銀山」の名が消える事を嫌がったのでしょう)。



 「拡大登録」に似た言葉に「登録範囲の軽微な変更」がありますが、こちらは資産の価値に影響を及ぼさない境界変更のことです。拡大登録とは違って暫定リストへの記載が必要なく、申請書類の提出のみで可能ですが、世界遺産委員会において変更の範囲が軽微でないと判断された場合には改めて拡大登録として推薦書を提出しなければなりません。

日本の世界遺産では「石見銀山とその文化的景観」が2010年に「登録範囲の軽微な変更」を行いました。その変更内容は主に三点で、集落の周辺のみだった大森地区の境界を背後の山の尾根にまで広げたこと、温泉津地区の境界を現代の影響が強いため除外していた港まで広げたこと、また断片的だった銀山街道の道筋をできるだけ繋げられるように延長したというものでした。