法隆寺五重塔

―法隆寺五重塔―
ほうりゅうじごじゅうのとう

奈良県生駒郡斑鳩町
国宝 1951年指定


 飛鳥時代に聖徳太子が宮殿を構えた斑鳩(いかるが)の里に、古代以降の寺院建築が極めて高い密度で残る法隆寺。その中枢であり、世界最古の木造建築群として知られる西院(さいいん)伽藍に金堂と並んで聳え立つのが五重塔である。聖徳太子が斑鳩宮の西側に築いた創建当初の若草伽藍が天智天皇9年(670年)の大火によって失われた後、金堂に次いで7世紀末に再建されたと考えられている。日本に現存する最古の塔であり、金堂などと共に飛鳥時代の建築様式を今に伝える極めて重要な存在であることから国宝に指定されている。またその洗練された意匠と安定感のある姿も相まって、京都市の醍醐寺五重塔、山口市の瑠璃光寺五重塔と共に日本三名塔のひとつにも数えられている。




仏舎利を納めた五重塔と仏像を安置する金堂が並列の伽藍配置である

 聖徳太子の発願により推古天皇15年(607年)に完成した創建当初の斑鳩寺は、南北一直線上に中門、塔、金堂、講堂を並べ、中門から講堂にかけて回廊で取り囲んだ「四天王寺式伽藍配置」であった。一方で天智天皇9年(670年)から奈良時代初頭にかけて整備された再建後の法隆寺西院伽藍は、東に金堂、西に塔を並べ、その前後に中門と講堂を配して回廊で取り囲む「法隆寺式伽藍配置」となっている。これは古くは釈迦の遺骨である仏舎利(ぶっしゃり)を納めた塔が寺院の中心であったのに対し、再建時には仏像を安置する金堂の重要性が高まっていたことを意味している。奈良時代の興福寺や東大寺などでは完全に金堂が寺院の中心となり、塔は回廊の外側に置かれるようになっていく。




心柱の先端に付けられている相輪
その根元には雷除けと伝わる四本の鎌が見られる

 法隆寺五重塔は金堂と同じく版築(はんちく、土を繰り返し突き固める工法)で築かれた二重の基壇上に建っている。心礎は基壇を築く前に穴を掘って据え心柱を立てており、故に基壇造成後は心礎が地中深くに埋まる形となる。これはより古い塔の建築工法であり、慶運3年(706年)頃に完成した法起寺三重塔では心礎を基壇上に埋め込んで心柱を立てており、法隆寺五重塔のように心礎が地下に埋没してはいない。また心柱の直下にあたる心礎の中央部には舎利孔が空けられており、そこに仏舎利を収めた容器が安置されている。なお心柱の地中部分は腐って空洞化していたが、現在はコンクリートを充填して固められており、舎利容器を取り出すことは不可能となっている。




逓減率が大きいため上部ほど脇間が狭く、五層は二間となる

 法隆寺五重塔は基壇上の高さが31.5メートルとかなりの大型の塔である。初重の柱間寸法は一辺21.18尺(約6.42メートル)であり、五重はそのちょうど半分となる。後世の五重塔と比較して逓減率(初重と最上重の比率)が大きいことから、どっしりと安定感のあるたたずまいとなっている。屋根は本瓦葺でありその勾配は緩やかだ。最上の五重目のみ野屋根を用いて勾配を強めているが、建立当初は下層と同様の緩やかな勾配であった。初重には金堂と同じく奈良時代に付け加えられた板葺の裳階(もこし)が巡らされている。建築様式もまた金堂と同様であり、尾垂木の先で出桁を支えて深い軒を実現している点や、反りのない角垂木を平行に並べる一軒(ひとのき)の軒回りも同様である。




雲肘木や雲斗の雲形組物であるが、金堂に見られる渦紋は施されていない

 法隆寺五重塔は細部の意匠も金堂と同様、飛鳥時代ならではの特徴を見せている。軒に出ている組物は雲肘木や雲斗など雲形の曲線を成す「雲形組物」であるが、金堂のような渦紋の彫刻は施されていない。初重は中央間を扉口、脇間を連子窓としているが、かつて内部は土壁が塗られ、金堂と同様の壁画で彩られていた。二重以上は柱盤の上に短い丸柱を立て、順次層を積み上げている。逓減率が大きいので三重の脇間は肘木を短くしており、また四重では脇間の肘木を繋ぎ、最上部の五重に至っては方二間となる。二重以上の周囲には卍崩しの文様を施した反りのない高欄が巡らされているが、高さがないので金堂の高欄に見られる人字形割束は入っていない。




初重の隅尾垂木を支える力士像はユニークだが、江戸時代の後補である

 法隆寺五重塔の初重内部は四天柱を包み込むように塑像の須弥山を構え、天井板には蓮花文を画いている。須弥山の東西南北にはそれぞれ奈良時代初頭の和銅四年(711年)に完成した仏教説話に基づく塑像群が配されている。そのうち東面は維摩居士(ゆいまこじ)と文殊菩薩の問答場面である「維摩詰像土」、北面は釈迦が死去する場面である「涅槃像土」、西面は仏舎利を分骨する場面である「分舎利仏土」、南面は弥勒菩薩がこの世に現れ人々を救う場面である「弥勒仏像土」となっている。いずれも写実表現に優れており、このような塔内の塑像群がほぼ完全に残されている唯一の例でもあることから「塑造塔本四面具(五重塔安置)」として約80点の塑像が国宝に指定されている。

2006年05月訪問
2010年04月再訪問
2022年04月再訪問




【アクセス】

・JR関西本線「法隆寺駅」から徒歩約20分。
・JR関西本線「法隆寺駅」から奈良交通バス「法隆寺参道」行きで約10分、「法隆寺参道」バス停下車、徒歩約5分。
・近鉄橿原線「近鉄郡山駅」から奈良交通「法隆寺前」行きバスで約30分、終点下車、徒歩約10分。

【拝観情報】

・拝観料:中学生以上1500円、小学生750円(西院伽藍、大宝蔵院、東院伽藍を含む)。
・拝観時間:2月22日〜11月3日は8時〜17時、11月4日〜2月21日は8時〜16時半。

【参考文献】

聖徳宗総本山 法隆寺
法隆寺五重塔|国指定文化財等データベース
・講談社MOOK 国宝の旅

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